はじめに
4~6月期決算は、半導体関連企業の業績底打ちを確認することができた決算でした。半導体関連の中心的な銘柄は半導体製造装置ですが、アドバンテスト(証券コード:6857)が減益ながらも大幅上振れとなり、4月の会社通期予想に対する営業利益の進捗率が5割超となりました。
東京エレクトロン(8035)も計画線を確保し、懸念された業績予想の下方修正は取り越し苦労に終わりました。SCREENホールディングス(7735)も4~6月期は営業赤字となったものの、半導体製造装置の収益性が改善したほか、台湾からの受注が急増しました。材料系でも、信越化学工業(4063)の半導体シリコン事業が逆風を物ともせず、増収増益を続けました。
今回は、半導体関連株の今後の見通しを分析したいと思います。
5G半導体やeスポーツ向けが牽引
半導体製造装置の需要が上向いているのは、「プロセッサ」と呼ばれる人間の頭脳の役割を担う半導体の需要が伸びているためです。5Gのサービスが始まったことで、「モデムチップ」「ベースバンドプロセッサ」と呼ばれる、通信や通話のための5G半導体の需要が拡大を始めました。
さらに、米国の大手ファプレスメーカー(自社工場を持たないメーカー)であるAMDが、GPU(画像処理装置)とCPU(中央演算装置)の新製品を同時に発表。eスポーツ向けの高機能パソコンの需要を喚起しています。
また、昨年来パソコン生産のボトルネックとなっているCPUについても、米インテルが現行14nmプロセスの増産投資と6月から生産が始まった10nmプロセスの量産投資、そして、次世代7nmの開発投資を同時に進めています。
5G半導体や高性能プロセッサの線幅は非常に細く、製造にはEUV露光装置など高性能な装置が必要です。たとえば、AMDやクアルコムのプロセッサを受託製造しているファウンドリー(半導体デバイスの生産工場)世界最大手の台湾セミコンダクタは今年、設備投資を増額しました。
6月以降はほぼ毎日のように、アプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン、スクリーン、日立ハイテクノロジーズなど、半導体製造装置大手各社に製造装置を発注しています。
半導体メモリの在庫調整も解消へ
もちろんリスクはあります。NANDフラッシュメモリやDRAMなど、半導体メモリの需給改善がさらに遅れることです。
ただ、こちらも改善の兆しが現れています。DRAMは7月になって価格が1割上昇し、現在もその水準を維持しています。NANDフラッシュも値上がりはしていないものの、1年以上続いた値下がり局面が終わった印象です。
半導体メモリ各社は減産を継続しており、在庫は年末までには適正レベルとなる見込みで、需給は今後少しずつ改善、来年後半には正常化すると思われます。
メモリメーカーが来年後半の需給好転に合わせ、タイミングよく生産能力を増やしたい場合、9月、遅くとも年末までには製造装置を発注する必要があります。このため、今年中にメモリメーカーにもなんらかの動きが期待できそうです。
過去40年を振り返ると、半導体設備投資の後退局面6回のうち、5回は半導体製造装置の販売額が2年連続でマイナスとなりました。この経験則に従うと、来年も半導体製造装置の販売は減ることになりますが、今回は上述の通り5G半導体やプロセッサの需要が強いため、調整は1年で終わりそうです。
株価への反映は?
株価については、半導体関連、特に製造装置メーカーが、半導体設備投資が増加に転じた時、プレミアムのついた水準まで上昇する経験則に従った展開が期待できそうです。業績底打ちに加え、信用取引の取り組み状況が魅力的であるほか、半導体製造装置は円建てで取引されるので為替を心配する必要がないためです。
信用取引の状況を示す貸借倍率は、日立ハイテクノロジーズ(8036)が3倍超と高いですが、東京エレクトロン、SCREENHD、アドバンテストの貸借倍率(信用取引の取り組み状況を把握する指標)は1倍を下回り、中でも東京エレクトロンとアドバンテストは約0.4倍と低水準です。
今後、収益モメンタムの改善が予想されることを考えると、「信用売り」の買い戻しがさらなる株価上昇につながる可能性が高そうです。決算発表後に急騰した半導体関連、特に半導体製造装置の株価の上昇は続きそうです。
<文:投資調査部 斎藤和嘉>