はじめに

9月1日、米トランプ政権は1,100億ドル分の中国製品を対象に、制裁関税の第4弾を発動しました。家電や衣料品など、生活に身近な消費財を中心に3,000品目以上に15%の追加関税を課す内容です。中国側も即座に反撃に出て、米国産原油や農産品などに5~10%の追加関税を適用する対抗措置に出ています。

米中問題はこのままずっと平行線を辿り続けるのでしょうか。今後の株式市場の見通しを解説します。


10~11月に大きく進展?

私の見解としては、必ずしも平行線のままではないと考えます。内憂外患の中国と来年に大統領選を控える米国は、本当の意味での全面対決を回避したいのが本音と推察されるためです。

対立するすべての争点について、双方の合意を得るのは難しいかもしれませんが、特定の分野に限ってであれば、部分的な合意に至ることは決して不可能ではないと考えます。さらに、その時期として、中国が建国70周年を迎える10月1日以降、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開かれる11月(16~17日)にかけて、事態が大きく進展する可能性があると見ています。

当面の株式市場を見渡した場合、米中通商問題の早期休戦を前提にすれば、やはり米国市場が優位な投資対象として浮かび上がります。低金利下でのファンダメンタルズの底堅さがその背景です。

また、この先の株式需給の改善が見込まれる日本株も次なる候補として挙げられます。一方で、欧州市場に関しては、Brexit問題を抱える中でのドイツ経済の減速等により、全般的に慎重なスタンスです。

米国の追加利下げは再びあるのか

一般に、「貿易戦争に勝者なし」と言われるように、米中問題が解決に至らないうちは、両国の景気減速懸念が完全には払拭されない可能性もあります。その際に、米国にとってのセーフティネットとなるのが、金融政策の追加的な緩和余地です。

米中摩擦の激化に伴い、追加利下げの可能性は8月初旬以降、急速に高まってきている印象です。貿易協議の風向きが悪くなってきた局面では、機動的な利下げが投資家心理の悪化を一定レベルで食い止めると期待されます。

また、8月中旬には米国の長短金利差の一時逆転が話題となりましたが、市場参加者が危惧するような米景気後退の兆候は今のところ確認されていません。

長引く米中貿易協議のもつれから、企業マインドこそ低迷するものの、良好な雇用環境に裏付けられた個人消費の堅調さは健在です。さらに、足元の長期金利の低下は、住宅市場の自律的な販売回復を後押しすると予想されます。

長期金利が急低下したことで、株式益回りとの差で計算されるイールドスプレッド(利回りの差)は拡大しています。すなわち、株式の相対的な投資魅力度が高まっている側面が指摘できます。

確かに米中貿易協議の難航は、市場参加者にとって悩みの種であることには違いありません。しかし、一方的な株安にもつながっていないことからは、米国株に依然として前向きな参加者が多いことの裏返しといえるのではないでしょうか。

欧州市場へはどう臨むべき?

ブレグジット問題を抱える欧州では、足元で不安材料がまた一つ加わりました。かねてから景気の減速が懸念されてきたドイツで、4-6月期の実質GDP成長率が3四半期ぶりに前期比でマイナス(-0.1%)に転じたのです。外需への依存度が高いドイツにとっては、米中貿易摩擦の激化によるマイナス影響は、無視できないものとなっている模様です。

このような事態が生じているからこそ、欧州中央銀行(ECB)では金融緩和の検討が進められ、ドイツ国内でも財政出動の議論が高まっていると解釈されます。こうした機動的な金融政策および財政政策への期待が、当面の相場を下支えすると見られますが、問題がこれだけにとどまらないのが、欧州株のウィークポイントです。

10月末にEU離脱期限を控える英国では、依然として「合意なき離脱」の回避にメドは立っていません。それを見透かしたように株式のバリュエーションは低下しており、ロンドン市場のFTSE100指数の予想PERはほぼ年初の水準まで切り下がっています。欧州株には引き続き、慎重なスタンスで臨むことが賢明といえそうです。

日本株は2万円を割り込むか

米国の金利低下は、為替の円高進行を通じて日本株には不利に働く面もありそうですが、グローバルの株式市場をリードする米国株の安定化から受けるメリットも無視できないものがあります。

経済的な結び付きが強い中国の景気不振は頭の痛い問題ですが、それでもリスクオフの背後にある米中貿易問題がこれ以上悪化しないということであれば、日経平均株価が2万円の大台を割り込む公算は低いと見られます。

PBR(株価純資産倍率)1倍の日経平均株価の水準は概ね2万円と計算され、最近ではそれが強力な下値のサポート役となっているためです。短期的にここまで調整が進んだ日本株については、やはり割安との判断が妥当といえるでしょう。

9月の基本シナリオはこれ

株式需給面での最近の話題を一つ挙げると、8月第1週の海外投資家の日本株売買動向が売り越しとなったことで、2012年11月第2週以降(すなわちアベノミクス開始以降)の海外勢の累積買い越し額がついにマイナス(売り越し)に転じました。

結果的に海外投資家はアベノミクスへのプラス評価をすべて吐き出したかたちですが、それは裏を返せば、日本株ポジションの整理一巡と捉えることもできます。この点からも日本株の下値の堅さがサポートされそうです。

いずれにしても、9月も最大の株価変動要因である米中貿易問題の行方に要注目です。仮に、短期間のうちに貿易協議の進展が見られなかったとしても、各国における金融・財政政策の発動によって、株式市場の波乱は回避されるというのが基本シナリオです。

今しばらくの間、辛抱強く株式市場を見守って、次なる投資環境好転の機会を待ちたいところです。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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