はじめに
アメリカ文化の中の出会い系
アメリカでは、日本以上にオンラインマッチングが盛んです。2005年から2012年のデータで既に、結婚相手と出会った方法としては、職場や友人(の紹介など)を抑えて、オンラインマッチングが1位(34.95%)になっています。(参照:アジズ・アンサリ 2016 田栗美奈子訳『当世出会い事情:スマホ時代の恋愛社会学』亜紀書房)もはや、アメリカでは伴侶と出会う方法として、オンラインマッチングが完全に主流となったようです。オンラインマッチング現象は、TEDトークでも取り上げられたり、2019年にはオフ・ブロードウェイ・ミュージカル(#DateMe)になったりしています。
日本ではペアーズが注目されていますが、アメリカで現在、マッチングアプリで最も話題となっているのはティンダーです。「ティンダー」は、ほぼプロフィール写真を見た第一印象だけで、ページを次々とめくるかのように、気に入れば右にスワイプ、気に入らなければ左にスワイプして、気に入った人同士がマッチし、連絡を取ることができるという仕組みです。
いわゆるhook-up、その場限りの恋愛を推奨しているような印象で、これまでの英米の報道では必ずしも良いイメージばかりとは言えないティンダーでしたが、社会学者ホブスらの調査によれば、ティンダーのユーザーたちであっても、理想としての一夫一婦制は揺らいでおらず、また長期の安定的な交際を志向する傾向は変わってない、との観測がなされています。(参照:Hobbs, Owen, and Gerber.)
また、facebookの交際ステータス欄の記載方法として日本でも多少注目を集めた、いわゆる「オープンな関係」(パートナーの異性交遊に干渉しないという関係)というものもありますが、ティンダーのユーザーでオープンな関係を良しとする人が多いわけでもなかったとのことです。
自身のアメリカでのオンラインマッチング体験を新書に著したハワイ大学教授・吉原真里も、次のように述べています。
「お互いに意味のある交際につながっていった相手であるほど、出会いがオンライン・デーティングであったということは、その後の関係にはそれほど意味がなかった。いったん付き合うようになれば、二人の感情や問題は、それぞれ固有の形をなすし、それを深く実のある関係につなげていく術は、二人の真摯な努力と態度以外にはなく、インターネットという媒体とは関係がないからだ。」
(参照:吉原真里 2008『ドット・コム・ラヴァーズ:ネットで出会うアメリカの女と男』中公新書。)