はじめに

マッチングの心理

こうしたオンラインマッチング隆盛の背景とは何でしょうか。特に日本では、諸外国と比べても、恋人が居る人の割合がそもそも低く、未婚化・晩婚化・少子化も同時進行中です。「職場恋愛をすると別れた時などに面倒だ」といった意見も今まで以上によく耳にします。そのような状況下では、オンラインマッチングに可能性を見出しても不思議ではありません。

自分と趣味や条件のピッタリ合うかけがえのない相手(昔ふうに言えば「赤い糸で結ばれた相手」)が、都市的な広い空間のどこかには居て、出会えるのかもしれない。そんな期待を持たせてくれるのがオンラインマッチングです。

メディアを通した出会いについて、古くは、雑誌の文通欄というものもありました。次に電話のコミュニケーションやポケットベルが隆盛を迎え、そして21世紀にはインターネットとスマートフォンの時代が到来しました。新しいメディアは、出会いの魅力とともに発展してきた面もあります。

マッチングアプリによって、パートナー選びにおける選択肢が際限なく拡大することは、絶え間ない適応をしてゆかなければならないということでもあります。マッチングアプリで出会っても、長続きしない、しかし次なる相手はまたアプリの中に居るかもしれない……そんな状況の中で「婚活疲れ」をしてしまう人もまた居ることでしょう。

また、新しい出会いの仕組みには、ある種のうしろめたさはつきものです。ペアーズで知り合った相手と結婚し、出産も経験したある女性は、次のように語っています。

「多少のうしろめたさはあります。親や親族にはオンライン上で出会ったと説明しても理解してもらいにくく、また相手に変な偏見を持たれても嫌だったので、結婚が決まった時に『出会い』については『友達の紹介』とぼかして説明しました。ただ周りの友達はマッチングアプリをやってる子も多いので、ペアーズで知り合ったと正直に話していました。」(20台代後半女性、主婦)

もっとも今は、マッチングアプリで知り合ったことを公言する若い人も増えてきています。都市の人間関係には、人間が交換可能な存在であると思わせるような面も時にはあります。しかしたとえそうであったとしても、今の時代に、マッチングアプリ的な仕組みの持つ有効性や、ある種の魅力を消し去ることはもはやできないでしょう。そうであるのならば、その賢い活用法を洗練させていったほうが現実的であるはずです。

アメリカのスタンドアップ・コメディアン兼俳優のアジズ・アンサリは、社会学者と組んで論じた現代出会い事情についての著作の中で、結論として次のように述べています。

「今日、パートナーを見つけるのは、おそらく昔の世代よりも複雑でストレスのかかることである/だが、本当に夢中になれる相手と結ばれる可能性も以前より高くなっている」

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