「施設から在宅へ」の方針は誰のためか

この映画は、NHKBS1スペシャルで放映された「在宅死“死に際の医療”200日の記録」に、新たなシーンを加え、再編集したものです。

監督・撮影の下村幸子氏は、初めて小堀医師に同行し、往診先の家々を訪れたとき、ゴミ屋敷や老老介護といった、複雑な問題を抱えた「埋もれている世界」のような医療現場のリアルに心の底から驚いたといいます。

そして、患者たちとの信頼関係を築くために、撮影チームではなく、あえて1人でカメラを持って小堀医師に同行しました。人の最期をカメラに捉えるという辛い仕事に時に精神的な平常を失いかけながら、立ち会った患者たちの最期がとても静かで穏やかだったことに救いを感じたといいます。

実際、この映画のなかで捉えられた、在宅患者の最期が訪れたあとの時間には、医師と家族がお互いにいままでの苦労をねぎらい、悲しみの中にも、やるだけのことをやり遂げたという、達成感のようなものすら感じられます。

「施設から在宅へ」の掛け声のもと、国は2000年代以降、高齢者の終末期医療を病院から自宅に移行させようとしています。そこには、医療費の急速な増大を抑制しようという、財政上の問題が背景としてあります。

一方、小堀医師の著書『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)に引用されているデータ(厚生労働省主催の第1回全国在宅医療会議・2016・7・6)によると、日常的な訪問診療に対応する医療機関の数は診療所では全体の20%、病院では全体の30%であるのに対し、在宅での看取りを行なっている医療機関の数は、診療所、病院ともに全体の5%に留まっているそうです。

2004年の厚生労働省、「人口動態調査」によると、国民の82.3%は医療機関で最期を迎えており、自宅で亡くなった人の割合は12.6%。最期を迎える時に、やはり万全な体制が整っている病院にいてほしいと願ってしまうのは、家族としても当然の感情でしょう。

それでも、住み慣れた家で迎える最期には、病院の環境よりも安らかで豊かな時間が存在すると考えることも、また自然な感情です。しかし、現状として、小堀医師のように安心して患者を任せられる在宅診療医が、日本中どこにでもいるというわけではありません。

この映画でもケアマネジャーや訪問看護師との連携が描かれていますが、医師の人徳頼りではなく、このような多職種連携のネットワークが日本中に張り巡らせられること。そして、介護保険の点数に縛られることなく、多職種の人々がそれぞれの理想の在宅医療ができる体制を行政が整えることが、いま一番必要な課題として求められているのです。