はじめに
空前の低金利時代なのになぜ高い?
かつては「サラ金」と呼ばれるなど、あまり良いイメージを持たれていなかった消費者金融。最近は大手金融機関の傘下に入ってテレビCMもおしゃれになり、ずいぶんと親しみやすい存在になっています。
しかし、このマイナス金利政策の時代にもかかわらず、消費者金融の金利は相変わらず高いままです(借入限度額設定が10万円~100万円の場合、法定上限金利は年率18%。多くの会社はこの利率を適用)。
いったいなぜだろう、と考えたときに、「審査も簡単だし即日融資してくれたりするから、貸す方にもリスクがある。仕方がないよね……」と納得してしまうのが普通かもしれません。
しかし、繰り返すようですが、史上最低水準の低金利が続く世の中で、以前と変わらぬ高金利が適用されるなんておかしくないですか?
じつは、この疑問を非常にわかりやすく解決してくれる経済学上の概念があります。それは「情報の非対称性」と呼ばれる概念で、このテーマを研究したジョージ・アカーロフ(1940~)が2001年にノーベル経済学賞を受賞するなど、経済学的にきわめて重要なものなのです!
経済学者の西孝氏の著書『社会を読む文法としての経済学』に、消費者金融の高い金利を例にとり「情報の非対称性」を解説した章があります。ここではそれを、要約的に紹介しましょう。
「情報の非対称性」で何が起きるか
「消費者金融の金利はなぜ高いのか」を考える前に、ウォーミングアップです。まずは、西教授による「情報の非対称性」の定義を頭に入れてください。
「情報の非対称性」とは、ある財・サービスについてそれを需要する側と供給する側とで、その財・サービスに関する情報量が異なっていること、と定義されます。
(101~102ページより)
そして、中古車市場を例に、「情報の非対称性」が市場にどう影響するかを考えてみます。
あなたは中古車を市場で買おうと考えています。予算としては、ていねいに乗られていた優良な中古車なら80万円まで、また、あまり優良ではない中古車でも40万円までなら出す用意があります。
そこに売り手があらわれます。売り手はもちろん、自分がいままで乗ってきた、売ろうとする中古車の状態を知っています。しかし買い手であるあなたは、目の前の中古車の状態が「優良」か「優良でない」かがわかりません。
ここに「情報の非対称性」があります。
もし売り手が、「この車はあまり優良ではないから、30万円でも売ろう」と考えていたら話はスムーズです。30万円から40万円の間で商談が成立する可能性が高いでしょう。しかし、「これはとても大事に乗ってきた車だから、70万円より安くは売らない」と考えていたらどうでしょうか。
あなたはすんなりと上限の80万円を出すでしょうか。あるいは売り手が考える70万円を出すでしょうか。おそらくは、車の状態がわからないのだから、そんなに気前よくはなれないでしょう。高いお金を出して不良品をつかまされるのは避けたいはずですから、心情としては40万円と80万円の「中間の」60万円くらいが限度ではないでしょうか。
すると売り手はどうするでしょう。せっかく大事に乗ってきたのに70万円以上では売れないのだから、売らない。そして、その市場から去ることになります。その結果、市場に残るのは優良ではない車だけとなります。
つまり、「情報の非対称性」がある市場では、買い手が高い価格を払えなくなってしまい、その結果優良なものが市場からなくなって質の劣ったものが残るという、非常に困った現象が起きてしまうのです。これを経済学では「逆選択」と呼びます。
一般的に、市場において自由な競争があれば、より安価で質の良いモノやサービスを生むと信じている人が多いでしょう。しかし、「情報の非対称性」のもとではまったく反対のことが起こるのです。