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対岸の火事では済まされない、米「レポ市場」で起きている異変

当局が10年ぶりに資金供給

米国で今、「レポ市場」における金利の上昇が話題となっています。レポ市場とは、主に国債を担保にして、短期の資金を貸し借りする市場です。1日当たりの取引高は数兆ドルと非常に大きく、参加者も多様で金融市場の根幹を成しています。

レポ市場で異変が起きたのは、9月17日のこと。それまで2%程度で推移していたレポ金利が一時8%を超えて上昇し、米国の短期金融市場を統括するニューヨーク連銀は実に10年ぶりとなるレポ市場を対象にした資金供給を行いました。その後は急激な金利上昇こそ落ち着いたものの、レポ市場は不安定な動きをみせており、ニューヨーク連銀は連日の資金供給を続けています。

レポ金利は、金融市場全体の短期金利の動向に大きく影響します。それだけに、日本人の投資家にとっても“対岸の火事”で済ませられる問題ではありません。足元の異変の根源を探ってみます。


なぜ短期金利が上昇したのか

米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、銀行が短期の資金を貸し借りするFF(フェデラルファンド)市場における金利の誘導目標を上下させることで、金融政策を行っています。短期の金利を上下させることで長期の金利に影響を与え、住宅ローン金利などを変動させて実体経済に影響を及ぼすのが、金融政策の主な役割です。

レポ市場の混乱の影響はFF市場にも及び、9月17日にはFF金利がFRBの誘導目標の範囲(2~2.25%)を一時上回りました。FRBはこれまで利下げを行ってきましたが、金利がその目標を上回ってしまえば、これまで行ってきた金融緩和の効果が削がれてしまいます。

レポ金利が上昇した理由として、

(1)同時期に大規模に発行された米国債を投資家が購入したことで、市場の資金が不足したこと
(2)企業が9月の米国年度末の法人税支払いのために、それまでレポ市場に出していた資金を回収したこと
(3)リーマンショック後に強化された金融規制によって銀行は特に期末近くになると取引を縮小せざるを得なくなったため、機動的な資金の貸し借りができなくなっていること
などが指摘されています。

異変の根底にあるもの

しかし、これらの根底としてあるのがFRBの準備預金の減少です。

準備預金とは、FRBが銀行から預かっている資金のこと。FRBは準備預金に金利を付けて銀行に支払っていますが、その金利は短期市場の金利よりも低いため、短期市場で金利が上昇した際には銀行は短期市場でその資金を貸し出すことで、より高い金利を得ることができます。それゆえ、準備預金の水準は“短期金利の上昇を防ぐバッファー”の役割を果たします。

FRBバランスシート

2008年の金融危機以降、FRBは金融緩和として債券を購入する量的緩和を続け、その過程でFRBの準備預金も増加が続いてきました。その後、景気が十分に回復したとの判断から、FRBは量的緩和を終了してバランスシートを縮小させ、準備預金もそれに伴って減少してきました。

それでも準備預金の水準は過去と比べると大幅に高い水準にあるため、レポ金利の上昇がこのタイミングで起こるのは多くの市場参加者にとって予想外でした。

考えられる“2つの可能性”

レポ金利の上昇を防ぐためには、これまで通り金利の上昇に合わせて資金供給を行うという方法と、金利上昇のバッファーとなる準備預金を拡大させる方法があります。

2009年から2013年にニューヨーク連銀で金融市場部門の責任者を務めたブライアン・サック氏は、FRBの誘導目標をFF金利からレポ金利に変更するとともに、準備預金を増やすことを主張しています。

もしこういった案が採り入れられた場合、FRBは準備預金を増やすために国債などの資産を再び購入する必要があります。それによってFRBのバランスシートが拡大すると、「量的緩和の再開」という連想を呼び、株式市場の上昇要因になる可能性もあります。

一方、対応策が不十分で短期金利の高止まりが続く場合には、日々の資金繰りを短期市場に依存するノンバンクや、ドル建て債務を抱える新興国などに、徐々にダメージが蓄積されます。

短期金利が政策当局者や多くの市場参加者の想定よりもかなり早いタイミングで上昇したことは、すでに誰かのドルの資金繰りに問題が発生している可能性も捨て切れないため、引き続き株式などの他の市場の動きを考える上でも、短期市場の動向には注視が必要です。

<文:ファンドマネージャー 山﨑慧>

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