はじめに

仕事の失敗や恋愛の悩み、将来への不安……。日々、積み重なる大小さまざまなストレスに耐え切れず、財布を掴んでデパートに逃げ込み、カード払いでひたすら浪費! 月末になるとカードの支払い額に青ざめ、「だから自分はダメなんだ……」と自己嫌悪。貯金はまったく増えないのに、ストレスばかり“貯め上手”になって幾年月――。

そんな負のループから抜け出すためにはどうすればいい? ドラマ化でも話題になった「アドラー心理学」に詳しい精神科医の和田秀樹氏に、お金との上手なつき合い方を教えていただきました。


浪費に依存する人は『共同体感覚』が欠乏中

▼アドラー流ヒント

共同体感覚:自分自身を共同体の一員だと感じ、ありのままの自分で信頼する他者に貢献しようとする感覚。

――ストレスや不安を感じたとき、浪費に走ってしまうのは、なぜなのでしょうか?

「“やめたいのにやめられない”という浪費は、依存症の一種です。“いくら洗っても汚い気がして手を洗い続けてしまう”“カギを閉めたかどうか気になり外出先でも安心できない”というのと同じで、不合理だとわかっているけれどやめられない。

これは、アドラー心理学でいう『共同体感覚』がうまく持てていない状態です。身近な他人に対して、“上手な依存”ができなくなっているのです。『人』に依存することができないから、『浪費』に依存してしまう。依存症は他者に依存することができない人に起こりやすい病態です。実は、ギャンブルなども仲間と一緒にしている人は依存症になりにくいという傾向があるんです。

オーストリアの精神学者・アルフレッド・アドラー(1870~1937年)が提唱した『アドラー心理学』には、よりよく生きるための知恵が詰まっています。お金との付き合い方についても、たくさんのヒントがある。

例えば、彼が唱えた共同体感覚も浪費に走らないためのポイントのひとつ。これは、自分が共同体の一員であり、共同体に受け入れられていると思える実感のことです。自分も相手も“同じ人間なんだ”という感覚でもあります。

空気を読まない人と思われることを恐れて行動できなかったり、自分の悩みを友人や家族にも相談できなかったりする人には、共同体感覚が欠けている。共同体感覚がしっかり確立されていれば、多少自分が言いたいことがあって、それがKYな発言や行動になったとしても嫌われないと思えるようになり、悩んでいるときも上手に人に頼れるようになります。

そうすると、今まで浪費で発散していたストレスも、周囲の人々との会話で発散できるようになり、不必要にお金を使いすぎることがなくなります」(精神科医・和田秀樹氏、以下同)

『横の人間関係』で虚勢を張ることから解放されよう

▼アドラー流ヒント

対人関係論:人間が抱える課題や悩みは、すべて対人関係に起因するという考え方。
劣等感:人間的な欲求としてよりよくありたいと思う自然な欲求。ただし、劣等感が歪んでしまうと、人間を非建設的な行動に走らせる**『劣等コンプレックス』** になってしまう。

――『共同体感覚』さえあれば、浪費を防げますか?

「自分に自信を持てない人も、浪費に走りやすい。自信のなさを、ついついお金で埋めようとするのです。これは、“高級なものを持っていれば人に馬鹿にされないだろう”“奢ったりプレゼントをあげたりすれば尊敬してもらえるだろう”と考えてしまうから。こうした考え方は、『縦の人間関係』で他者と接しているために生まれます。

アドラー心理学には、“人間の悩みはすべて対人関係に原因がある”とする『対人関係論』という考え方があります。“上司と上手くいかない”という直接的な人間関係の悩みだけでなく、“自分はブスだ”“俺は仕事ができない”という悩みも、結局は、自分より美しい人や仕事ができる人の存在が頭の中にあるから発生するものですよね。

『劣等感』は、人間なら誰しもが持つ“今よりもより良く生きたい”という自然な欲求。幸せになるための努力の素となる大切なガソリンです。ただし、劣等感が歪んで、例えば“自分はダメな人間だから、お金を使わないと好きになってもらえない”という考えに取りつかれると、浪費のような非建設的な行動に走ってしまいます。このような歪んだ劣等感をアドラーは『劣等コンプレックス』 と呼びました。

劣等コンプレックスから抜け出すには、縦の人間関係ではなく『横の人間関係』で捉えるライフスタイルを身につけることです。『縦の人間関係』とは、人間に上下があると認識し、他者を自分より上位の存在として恐れたり下位の存在として見下したりする考え方。逆に『横の人間関係』は上下ではなく、どんな人とでも対等な横並びの関係だとする考え方です。

縦の人間関係で考えることができるようになれば、必要以上に自分を大きく見せたいという気持ちがなくなります。なので、無駄に高級なものを買ったり他者に過剰に奢ってしまったりすることから解放されるでしょう」

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