はじめに

“お金は汚い”という『認知』は危険

▼アドラー流ヒント

認知論:人間は主観的な認知を通してしか事実を捉えることができないとする考え方。
目的論:人の行動を原因ではなく目的によって理解しようとすること。

――“お金を使うこと”に依存してしまうと危険なのですね。

「ただ、気をつけなければいけないのは、依存はいけないという考えが強すぎて、お金を使うことや稼ぐこと自体に嫌悪感を持ってしまうこと。

アドラー心理学では、“人間は出来事を<認知>という自分自身の心にかかった色眼鏡を通してしか認識することができない”とする『認知論』という立場を取りますが、日本人には“お金は汚いものだ”“稼ぐことに必死になるのは悪いことだ”というようにお金に対して嫌悪や罪悪といった認知を抱く人が多い。結果、お金ときちんと向き合うことを避け、使い方が下手になってしまうのです。

欧米諸国やイスラム諸国には、富める人が貧しい人に財産の一部を分け与える寄付の文化が根付いています。これは、“金儲けをしたら社会にもきちんと返しましょう”という、お金を浄化するシステム。寄付文化がある国では、お金は浄化されるものなので“汚い”という認知を持つ人は日本よりも少ない印象を受けます。お金を稼ぐという過程ではなく、きれいに使うという結果を重視しているのです。

寄付文化が日本で育っていないのは、日本人が結果よりも過程を、そして、行動よりも人格を大切にする国民だからかもしれません。寄付という本来尊ばれる行動を取ったとしても、日本では“あいつは成り金で性格が悪いから偽善だ”とプロセスや人格で評価が下されやすい。

アドラーは人間の行動を原因ではなく、その目的から理解しようとする『目的論』という考え方を提案しました。これは、過程よりも結果を、人格よりも行動を大切にする考えでもあります。目的論を通して物事を捉え直してみてください。すると、“お金は汚いものだからお金について真剣に考えたり人と話したりするのは恥ずかしい”というような危険な認知から自由になり、稼ぎ方や貯め方、使い方などお金に関する行動がガラリと改善されるかもしれません」

大切なのは“幸せになる勇気”

▼アドラー流ヒント

自己決定性:人間は過去の出来事や環境に縛られず、自分自身の意志で未来の行動を選択することができるという性質

「また、お金を使うこと自体も悪いことではありません。お金を使った結果、幸せを感じることができるならば、それを浪費とは呼びません。浪費とは、不要な物を買ったり、不要なものにまでお金を使ってしまう行動です。

本当は、節約できない自分に対して、自己嫌悪を抱く必要だってありません。それは、“節約できた方が優れた人間である”という認知論に囚われているということですし、世間の価値観に過度に適応しているということでもある。また、節約できない“行動”ではなく節約できない自分という“人格”を重視しまっています。目的論の立場から分析し直してみれば、あなたの消費が日本経済を潤しているわけです。せっかく大切なお金を使ったのですから、“私の行動が日本の経済を支えているのね”くらいの鷹揚な気持ちを楽しんでもバチは当たりません。

自分が幸せかどうかを決めるのは自分自身、幸せになる行動をとるかどうか決めるのも自分自身です。これを、アドラーは『自己決定性』と呼びました。大切なのは、幸せになる勇気を持って行動すると決めること。お金に振り回されるのではなく、あなたの人生をより良くするためにお金を使いこなしてください」

■和田秀樹氏 プロフィール

1960年、大阪府生まれ。国際医療福祉大学大学院教授、和田秀樹こころとからだのクリニック院長。日本における自己心理学の第一人者。

『マンガでわかる! アドラー心理学 折れない心の作り方』和田秀樹 著


マンガだからこそ理解しやすく身につきやすい! 今回の記事で紹介した考え方をはじめ、「折れない心」を育み、人生を幸せに切り開くのにぴったりなアドラー心理学の理論が盛りだくさんの一冊(宝島社)。

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