はじめに

10月7日に公表された8月分の景気動向指数(一致CI)は、前月から0.4ポイント低下し、内閣府による景気判断は「下げ止まり」から、再び「悪化」に下方修正されました。景気動向指数は複数の経済指標によって作成されますが、日本の景気変動を最も的確に示す指標の1つです。

内閣府の判断が悪化に転じたことは、日本が景気後退に至っている可能性が高いことを意味します。この判断は景気動向指数から機械的に決まりますが、政府の意図などとは関係なく、日本経済がいわゆる後退局面に近い状況にあることを客観的に示しています。

一方、景気動向指数の構成項目の多くは、製造業の生産活動の変動を反映するため、必ずしも経済全体の動向を表していない可能性もあります。春先から持ち直している個人消費、そして企業の景況判断を示す日銀短観の業況判断DIの水準などを踏まえると、「すでに景気後退に陥っていると判断するのは早計」との見方もできます。

また、今回は8月分の指数ですから、家電、日用品などにおいて増税前の駆け込み消費が9月に現れた影響で景気動向指数が持ち直し、来月には景気判断が上方修正される可能性が残ります。

はたして、日本の景気はすでに景気後退局面に入っているのか、いないのか。筆者が「すでに入っている」と考える理由を解説します。


消費増税後の景況感の焦点

この先の景気動向指数について考えるうえでの問題は、消費増税後の10~12月以降の景気情勢です。筆者は、消費増税によって10~12月は個人消費が大きく減速し、GDP(国内総生産)成長率はマイナス成長に至る、とみています。

仮に9月に景気動向指数が一時的に持ち直したとしても、10月以降も景気動向指数の低下は続くと予想します。そうであれば、約1年前の2018年10月頃をピークに、すでに景気後退が始まっていたと認定される、とみています。

消費増税の悪影響に加えて、海外経済の減速が長期化することも日本経済の成長下押しになると考えます。米中の経済紛争は、関税引き上げに加えて、一部企業の禁輸などにも広がりつつあります。

すでに、2018年12月から世界貿易量は前年比でマイナスに落ち込み、その後も停滞が続いています。貿易停滞を受けて、国内需要がしっかりしている米国を含めて、世界的に製造業の景況感悪化が広がっています。

広がる米中摩擦の波紋

そして、2018年から続く米中による関税引き上げの対象範囲は、2019年に広がっています。関税引き上げに伴う米中間の貿易や経済活動への悪影響はこれから本格化するとみられ、製造業の生産調整は長期化するでしょう。

製造業の生産調整を長期化させるのは、米中関税引き上げだけではありません。グローバル展開する米中の企業にとって、経済合理性に基づかない通商政策などの不確実性が極めて高いため、企業は設備投資抑制を強めているとみられます。設備投資需要の減少が製造業の売り上げ・生産を下押しする経路が今後明確になる、と筆者は予想しています。

確かに一部、アジアの半導体セクターなどに生産調整終了の兆しがみられます。しかし、貿易活動全体への下押しが続くため、景気底入れの期待は裏切られる可能性が高いとみています。

米国経済については、明るい動きもみられます。米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、調整していた住宅投資が回復に転じました。さらに、インフラ投資など政府による歳出拡大が2019年から明確になり、これらが米国経済の成長を支えしています。

ただ、製造業の業績悪化が非製造業や労働市場に及ぶ兆しもみられており、今後、米国経済は2%を下回る成長率に減速するとみています。

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