はじめに
だんだん彼の本性が顕れて
時間がたつにつれ、彼のちょっとした言葉がミナミさんの心をざわざわさせるようになっていきました。
「彼の家で洗濯をしたとき、私の干し方が悪くてお気に入りのTシャツの型が崩れたんです。謝っているのに、『女のくせにこんなこともできないの?』とイヤミを言われて。それ以降、彼の文句にはよく、『女のくせに』『女なんだから』という言葉が出てくるようになりました。最初は気にしないようにしていたんですが、やはり気になるんですよね」
しばらくして、彼の実家に挨拶に行くことになったとき、彼から服装やヘアメイクの指定が入りました。
「清楚なワンピースで、髪は軽くカールして。ヒールは5センチくらい。ストッキングの色はナチュラルでって。細かい指定でしたね。まあ、でも親に会うならしかたがないかな、と」
ふだんはカジュアルな服装が多かったミナミさん、清楚なワンピースというのはどういうものかと彼に尋ねました。すると彼が後日、送ってきてくれたのです。
「小花柄のワンピースでした。かわいいというかダサイ(笑)。でも我慢して着ていきましたよ。彼のご両親はにこにこして迎えてくれましたが、いきなり『おとうさまのご職業は?』と聞かれたことにびっくり。うちの父は工場で働く職人です。父は仕事に誇りをもっている。そういうふうに答えたら、ご両親は沈黙。あとから彼は、『気にしないでいいよ。親と結婚するわけじゃないんだから』と言ってくれたけど、やはりひっかかりましたね」
自分だけでなく、親まで値踏みされるのは不快なものです。それでも彼女は彼のことが好きだったから、結婚さえすればあとはうまくいくと思い込んでいました。
「でも式場を決めようと話しているとき、彼が『式の費用はうちが6,ミナミの家が4という割合でいいよね』って。家と家の結婚だと思っているのか、と疑問がわきました。それに彼が考えているような大々的な式を挙げるつもりも私にはなかった。実家にも経済的な余裕はありませんし。すると彼は、『うちの実家から、ミナミの親御さんにお金を貸してもいいけど』とこともなげに言うんです。彼の家、不動産関係もやっているけど貸金業もしているらしいと初めて知りました。だけど結婚相手の親にお金を貸してもいいけどという表現はどうなんだろう。彼への不信感が決定的なものになりましたね」