はじめに

富裕層囲い込みに必要な販売チャネルは?

なぜ中国やロシアの国内の直営店だけでは、新興国の富裕層の囲い込みに足りないのか? 中国もロシアも国土が広いからです。

確かに上海で大企業を経営している富裕層であれば、上海にあるプラダの直営店には足を運びやすいかもしれません。とはいえ彼らも忙しいので、お嬢様の買い物に付き合う時間は頻繁には取れないかもしれませんね。

しかも実際に超富裕層の割合が高いのは、地方都市の共産党幹部や工場のオーナーたち。彼らが上海や北京に出てくる機会は、年に数回しかないかもしれません。ロシアの富裕層の場合は、地理的にさらに難しいかもしれませんね。

そして、一般的に女性のほうがブランドが好きですから、ご主人だけが来店しても何を購入していいかわかりません。一方で数十万円の靴やドレスとなると、奥様だけの一存では決められないかもしれません。

つまり新興国で年収が数千万円から1億円というレベルの富裕層に上顧客になってもらおうとしたら、大都市に旗艦店があるというだけではリピート需要を取り込めないわけです。

ネット通販のコピー商品問題

そこでインターネット通販が主要顧客を囲い込むための重要ルートになるのですが、ここでひとつ問題があります。それは偽物の流通です。

ブランドのコピー商品は、企業にとっては大問題です。ヤフオクなど身近なところにコピー商品が氾濫していた頃と比べれば、取り締まりや法制の整備でコピーブランド問題は収まったように思えるかもしれません。

しかし実態はその逆です。製造技術が進化し、「スーパーコピー」と呼ばれる本物と区別がつかないほどの商品が増加しています。

プラダの場合は、1990年代にイタリアの協力工場が本物のプラダに使われている部材の横流しを行い、本物そっくりの偽物を製造して新興国で売りさばくという事件が起きています。それ以降は協力会社の管理を徹底させたわけですが、今ではそのような真正の部材を入手しなくても本物と外見がそっくりな商品を製造するスーパーコピーメーカーが存在しているのです。

問題解決のカギは最新技術

実際、世界にはまだまだコピー商品があふれています。大きなニュースにはなりませんでしたが、大手通販サイトで摘発されたコピー商品の販売仲介に通販サイトの社員が関わっていたという事件もありました。どんなに経営者が注意を払っていても、偽物ビジネスは大企業の末端社員にまで浸食を始めているのです。

しかし、この問題は面白いかたちで解決するかもしれません。世界トップのアメリカ「eBay」を追いかけているオークションサイトに「True Facet」という時計や宝飾品に特化したサイトがあります。このサイトが急成長している理由のひとつは、AIを使ったコピー判定技術。偽物がオークションサイトに上がると、すぐ偽物だと判定し、出品が取り消しになることでユーザーは安心して高級ブランド品を取引できるのです。

スーパーコピーといっても、本物とはどこかが違う。これまではプロが実際に触ってみなければ、スーパーコピーだとはわからないというレベルの商品でも、これからはスマホで画像を撮影すれば即座に偽物だとわかる時代が来るかもしれません。

このような技術的追い風もあり、プラダには新しい商機が起きているようです。プラダが卸売を始めたというニュースが聞こえてきました。

最近のプラダは外部の通販サイト「ネッタポルテ」への商品供給がうまくいっているそうです。これまで超高級ブランドは偽物対策の観点から力を入れにくかった通販への卸売り事業ですが、技術の進化によって今後はやりやすくなるかもしれません。

そのような事情から総合的にみて、プラダがネット通販を強化することになった。このニュースの背景にはこのような事情があったのです。

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