はじめに

販売速度の調整で食品ロスを低減

今回の実証実験に食品スーパーは参加していませんが、実は食品ロスが出やすい、生鮮食料品を扱うスーパーこそ、ダイナミックプライシングは効果を発揮しそうです。

たとえば、ほうれん草が18時に売り切れてしまったとします。そうすると、閉店までの数時間は欠品状態が続くわけです。一方、豆腐は閉店時点で大量に売れ残っていたとしたら、廃棄に回さざるを得なくなります。

もしも18時よりもだいぶ前の時点でほうれん草を値上げしておけば、売り切れるまでのスピードは下がり、欠品となる時間帯を短縮できます。逆に、豆腐は早めに値下げしておけば、もっと売れたかもしれません。

生鮮食料品は基本的に在庫を持ち越せません。だからといって、閉店時間のだいぶ前に完売してしまっては機会損失になりますので、閉店時点で完売することが理想です。ダイナミックプライシングを使うことで、売り切れるまでの速度を調整できれば、理想に近づくことができます。

一般に、食品スーパーは地域性が色濃く出るので、店舗への権限委譲がかなり進んでいます。店舗側の裁量が大きい分、値札の張り替えは店舗スタッフの経験と勘に頼っているのが現状です。加えて、下げることはしていても、上げることはしていません。

値段を上げることで販売スピードを下げるという発想を、店舗側が受け入れられるかどうかは、ダイナミックプライシングを導入するうえで最大のハードルになるでしょう。

売り方そのものを変えられるか

いわゆる「特売」で顧客を呼び込む手法も使えなくなります。売り方そのものを変えなければならないわけですから、現場の抵抗は想像にかたくありません。

それでは、消費者側はどうでしょうか。食品スーパーには多い人は毎日、少ない人でも1週間に1度は行き、その都度値段を見ています。家電量販店にそれだけの頻度で通い、同じ商品の値段を見ているという人は、かなり例外的な存在でしょう。

消費者はそれぞれ、自分の中で許容可能な価格の幅というものを持っています。今でも生鮮食料品の値段は毎日違います。昨日5本入り298円で買ったナスが、今日は同じ量で198円に下がっているということは日常的に経験しています。値段が変わる頻度が1日単位から数時間単位に変わることに、どれだけの消費者が抵抗するでしょうか。

消費者は行動半径内にある複数のスーパーを回り、価格を見ています。特売品だけが売れて、他のものもついで買いしてもらおうと思っても、なかなか思惑通りには行動してもらえていない、というのが現状ではないでしょうか。

一方で、欠品による機会損失を、小売り側がどれだけ自覚しているか疑問です。たった1品、材料がそろわないために、別の店に行くわけですから、欠品は店舗側にとっても不利益です。

少なくとも価格を科学的に上げ下げすることで、廃棄ロスの削減効果がどのくらい見込めるのかは、実験してみる価値はあるのではないでしょうか。

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