はじめに

「若者の時計離れ」は本当?

――確かに、日本でも「若者の時計離れ」などと言われる反面、時計の売上高自体は下がっていなかったりしますね。逆にスイスブランドなどは値上がり傾向にあります。

広田:(日本での)時計の売り上げも、実はそんなに悪くないのです。スイス時計で言えば日本市場はいまだにトップ5に入りますし。

ただ、日本における「若者の時計離れ」は事実でしょう。1つには若い人の可処分所得が下がっている点があります。よく「時計の値段が上がった」と(日本で)言われますが、海外の人からすると、上がったという意識はないのです。(時計メーカーが)設備投資をすれば時計の価格も上がりますが、スイスやドイツなどは賃金も上がっているので相殺されます。スイスのフランは明らかに昔より強くなっていますから。

でも、実は日本の方は(経済)成長していなかったのです。特に若者は給料が安い中で携帯料金を払い、彼女とデートに行ったり居酒屋などを使っていたりしたら、とてもじゃないと(時計に)お金は払えない。(時計離れには)携帯電話の普及も原因として大きかったと思いますが、日本企業の生産性の(伸びの)低さもあったと思います。いわゆる車離れや時計離れと言われる物には、実は日本社会の構造的問題があるのです。

若い世代でも、お金のある人の中から今も高級時計好きが出てきているとは思います。ただ、あくまでメーンユーザーは上の世代ですね。

――時計業界を盛り上げる立場の広田さんですが、とても冷静な分析ですね……。一方で、若者や初心者が冒頭で出たように、趣味と実益を兼ねてリセールによる「一攫千金」を狙い高級時計を買ってみるというのは、、アリでしょうか?

広田:確かに時計は資産として価値がありますが、(投資対象としては)世界景気に左右される非常に難しい物です……。例えば米中対立の結果、中国市場の購買意欲が下がったりすることもあり得ます。ロレックスの「デイトナ」は、少し前は(新品を)買った瞬間に転売すれば100万円以上の大きな儲けが出るほどでしたが、実は今、売値は落ちています。

(仮想通貨の)ビットコインほどとは言いませんが、時計のリセール市場もまた、かなり不安定なのです。価格が極端に動くので、普通の人が(リセールでの収益を)狙って出せるものではない。投資としての安定性に関してはダメですね。

――うまい話は転がっていないのですね……。それでも高級時計の世界に興味を持った若い人や初心者は、どんな感じで付き合い始めるのが良いですか?

広田:初心者の入り方は、ファッションなど自分の好きな物を選べばいいと思います。1万円でも1,000円でも、値段は関係なくとりあえず着けてみればいい。着け心地がまず大事なのです。自分にとって時計が「快適」かどうかは、人によって違いますから。

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