はじめに
どこかの窓口に行けば必要な支援に繋げてもらえる連携支援
(A)のネウボラ・チームによる相談支援は、それぞれの専門性や活動圏を活かしたネットワークによる支援で、対象者すべてに妊娠出産に関する支援がなされるのはもちろん、個別に重点的な支援が必要な場合は、即座に行政のほかのサービスに繋げる体制も整えられています。
たとえば、失業や経済的な困窮があれば、生活支援が必要でしょう。うつ病などの既往があればメンタルケアに重点を置いた支援、DVなどの問題があれば生活全般を調整するような支援というように、行政の部署を横断した連携によってなされます。
困り事があるごとに、役所のいろいろな担当窓口を訪れ、おなじような相談を何度もするのは、特に妊産婦にとって、時間や体力の面でも負担なもの。
しかし世田谷区では、どこかの窓口に行けば、必要な支援に繋げることができるように、連携を強化し、妊産婦にとって心強い体制を整えようとしているといえるでしょう。
プランシートの活用で妊産婦のセルフケアや家族へもアプローチ
妊娠期面接で作られる支援のプランシートには、まず体調や仕事、気持ちについて、現在の状況と今後の予定、子育てに関する意向を書く欄があり、ネウボラチームが直接、話を聞いて、できるだけ妊婦さん自身の言葉で書き入れるようにしています。
そして、妊娠初期・中期・後期、そして産後と、各時期について**(1)「セルフケア(産前産後の体調管理)」、(2)「ご家族の方へ」、(3)「プラン」** で構成されています。
(1)「セルフケア」では、妊娠したばかりのとき、特にはじめての妊娠ではまだ想像しづらい、今後の心身の変化と、その対応を知ることができます。
筆者への相談においてよく聞かれるのは、妊娠中や産後、夫・パートナーへ「こうしてほしい」と思っても、なかなかうまく伝えられない。子育てで心身ともに疲れ切っていたり、産前産後のホルモン変動による心身の不調だったりで、夫・パートナーに要望を伝える余力すらなくしんどい。妊産婦の「言わなくても、自ら察し率先して動いてほしい」気持ちと、「言ってくれなければわからない」夫・パートナーとのすれ違いから夫婦の溝が深まっていくという事例も見られます。
しかし、(2)「ご家族の方へ」には、時期に応じて、夫・パートナーらがすべきサポートや、話し合っておくべきことが書かれていますから、このシートを家族内で共有しておくことで、妊産婦の負担を軽減し、夫婦・家族間の摩擦を防ぐこともできるでしょう。
(3)「プラン」には、世田谷区の支援プランとして「子育て応援メニュー」が紹介されています。妊娠届け時に母子健康手帳とともに渡される「子育て応援ブック」に詳細が書かれており、プランシートにはその参照ページが記載されていますから、調べるのに手間取らずに済みます。
なおシートはA6版で、母子健康手帳に挟んでおくことができます。紛失する心配も少なく、普段から目を通しておくことはもちろん、いざというときにも、さっと手軽に参照することができるでしょう。
愛知県豊田市の三つ子虐待死事件では、市の支援としてファミリーサポートの利用を紹介されたものの、階段のないマンションの4階にある自宅から、三つ子を連れて、登録のために外出することが困難で、利用には至っていませんでした。
そのような事情でなくとも、産前産後の多忙を極めるなか、支援について調べる手間や手続きの煩雑さから、前段階でつまずき、支援を受けたくても受けられていないケースもあるでしょう。
世田谷版ネウボラでは、そうしたことを防ぎ、必要な支援へと着実に繋げるよう努められています。