はじめに
真冬に子どもに着せるコートを買うお金もない親たち
――本の中には子どもの貧困にまつわる話も多く出てきました。
緊縮財政が始まったのは2010年。今、イギリスに住む子どもの3人にひとりは貧困と言われています。すごい数ですよね。
「これは大変なことになってきた」と実感したのは、2012年頃。学校や教会で、お金がなくてコートが買えない家庭に寄付するために着なくなったコートを集め始めたんです。
イギリスは真冬にコートを着せていないと「育児放棄」と言われるほど子どもの福祉には厳しい。親が子に関心がないのではなく、子どものコートを買うお金すらない家庭が増えてきたのがあの頃。
学校にかけるお金もどんどんカットされています。本にも書きましたが、息子の通う中学校では伝統的に新入生だけが出演するミュージカルを上演しています。新入生の団結力を高めるために毎年行われていたのですが、資金がなくなって翌年から中止になりました。
全体の予算が限られているなか、教材を買ったり施設を直したりと、ほかにお金をかけなければならないので。寄付もなかなか集まらなくなり、体育館を建てようという計画があったのに頓挫してしまいました。でも息子の学校はまだいいほう。老朽化した校舎が直せないという学校もあります。
――ミュージカルの中止のように、文化的側面にお金がかけられなくなることについて、息子さんは何と言っていますか?
息子くらいの世代だと、緊縮財政以降のイギリスしか知らないんです。だから、そういうものだと思っているのかも。トニー・ブレアの時代の学校が豊かでお金があったことも知らないんです。
でも、一部の教員たちは反緊縮を訴え続けています。未来を担う子どもたちをちゃんと育てないでどうするんだって。
今年、英国初等学校長会の代表による演説が新聞に載り、話題になりました。「今イギリスはブレグジットで揺れているのけれど、どんな結果が出てもその後始末をするのは今のティーンだ。それなのにティーンの世代にかけるお金を削るというのは、イギリスにとっては自殺行為ではないか」と彼は訴えました。
確かに今、政治はブレグジットの話題で持ちきり。緊縮財政や福祉の問題が後回しにされています。