はじめに
11月の世界の株式市場では、米中貿易協議の「第1段階」の合意に対する期待の高まりで、株価は軒並み上昇しました。米国ではNYダウ、S&P500、ナスダック総合指数がそろって過去最高値を更新。日本でも、日経平均株価が昨秋以来となる2万3,000円台を回復しました。
さらに、欧州では独DAX指数が最高値まで2%程度のところまで接近し、仏CAC40指数も12年ぶりの高値水準まで上昇しました。米中貿易問題の決着(一時休戦)は、それだけ世界経済を好転させうる材料として市場に受け止められているもようです。
昨年の同時期とはまったく異なる景色が広がるグローバルの株式市場では、高揚感に包まれたまま年末を迎える公算が強まっています。
世界の株価に上昇余地はあるか
次の大統領選まで1年を切った米国と、景気の低迷から抜け出せない中国、双方にとって長きにわたる貿易交渉の決着は待ったなしの状況となっています。あくまでも年末までには、なんらかの形で合意に至るとの見方が既定路線です。
すでに各国の株式は、予想PER(株価収益率)などで見たバリュエーションが切り上がった状態にありますが、「年内決着」の一報を受けて、株価にはもう一段上振れの余地が残されているように思います。
逆の見方をすれば、「協議決裂・物別れ」が最大のリスク要因となりますが、それを除けば目立った不安材料もありません。当面は協議の行方を見守りながらの堅調な相場展開が続くと予想します。
その際に、貿易協議の当事者たる米国や中国が最も問題解決の恩恵を受けそうですが、世界景気の持ち直しによる外需の回復で、日本や欧州にも波及効果が行き渡ると考えられます。
業績不振でも米国株が上昇している理由
足元で高値を更新した米国株は、NYダウが2万8,000ドル台に到達しています。一方で、7~9月期の業績(EPS、1株当たり当期純利益)はS&P500ベースで前年同期比▲0.4%(11月29日時点、リフィニティブの集計)と、13四半期ぶりの減益着地が濃厚となっています。
株価の好調と業績の不振に大きなギャップが生じているようにみえますが、今の株高を支えているのは、あくまでも米中問題の決着による先々の業績改善への期待です。
S&P500の2019年通年での増益率は1%強にとどまりそうな半面、2020年には10%近くまでの回復が予想されており、米中合意をきっかけとするファンダメンタルズ改善への期待が、強い株式相場の拠り所となっています。その結果、S&P500の予想PER(12ヵ月先予想利益ベース、以下同じ)は18倍近辺まで押し上げられています。
米国株の勢いは年末も続く?
米国では今年、3回の利下げが実施され、長期債の利回りは2%を下回る水準にとどまっています。低金利環境に変化がなければ、予想PERは高止まりする可能性が高く、それが株価を高値で支える支援材料となるでしょう。
これから年末にかけては、ホリデー商戦が本格化していきます。堅調な雇用環境と好調な相場環境が追い風となる今年の商戦には、ある程度、良好な結果が期待できます。順調な売り上げの伸びが報じられていくことで、再びそれが株価上昇を促す可能性があります。
現在の株式市場では、ファンダメンタルズの好材料を前向きな相場のエネルギーに置き換えるモメンタム(勢い)があり、小売りや決済関連、ハイテクの一角などには、ホリデー商戦を切り口とした投資マネーの流入が活発化することも考えられます。
いずれにしても、年末にかけての米国市場では、貿易問題や香港情勢以外の波乱要因は想定しづらく、基本的な相場の地合いはポジティブな状態が維持される見通しです。