はじめに
妻に聞いた夫婦の家事分担の実態
このようななか、先の研究所では今年9月、「ゴミ出し」などの“家事”とともに、「ふだん家事として語られることの少ない日常的な作業」を“見えない家事”として夫婦の分担の実態を公表しました。
有配偶女性を調査対象とするこの調査では、「ゴミ出し」「日常の買い物」「部屋の掃除」「風呂洗い」「洗濯」「炊事」「食後の片付け」といった“家事”を妻が行う頻度がいずれも高い上、“見えない家事”とした「食材や日用品の在庫の把握」「食事の献立を考える」「ゴミを分類し、まとめる」「家族の予定を調整する」に関しても夫に比べ妻の担う割合が高いことを指摘しています(図2,3。ただし「購入する電化製品の選定」に関しては「ふたりで一緒に」や「夫」の割合が「妻」よりも高い)。
この資料では「夫も家事や育児を平等に分担すべきだ」との考えに賛成する女性が8割を超えること等からも、「妻に偏る家事育児の分担」について、「夫婦の平等」が求められると強調しています。
図2:妻の"家事"遂行進度(家事の種類別)
注:集計対象者は、全国の有配偶女性6,142名のうち、すべての家事の種類について回答した60歳未満の人。四捨五入の関係で割合の合計が100にならない場合がある
資料:国立社会保障・人口問題研究所「第6回家庭動向調査」2019年9月
図3:夫婦における"見えない家事"の遂行状況
資料・注は図2に同じ
妻は夫婦の「平等な」家事分担を望んでいるのか?
この調査が興味深いのは、妻の回答に基づいて妻の負担を問題にしていることです。家事の担い手が妻に偏る厳しい現実はあるものの、夫も夫なりに頑張っている場合もあるので、夫の言い分も聞いてみないと少しアンフェアなようにも感じられます。
もしかすると、もう少し手伝えたらと思っている夫や、負担ならその家事自体を減らしたり効率化してはどうかと思っている夫もいるかもしれません。
また、ミドル世代の中には、自分が担っている家事や見えない家事を、夫が肩代わりすることや、夫と分担することを望んでいる妻がどの程度いるのかが気になる人もいるでしょう。この調査では夫の家事に対する妻の満足度もたずねています。
夫の家事の現状に不満を感じている妻の割合は妻の年齢や働き方、夫の帰宅時間によって異なるものの、おおむね半数程度にとどまっています。
出張や夜勤・早朝勤務など夫婦の働き方が不規則で、家事を平等に担うのが難しいケースもあれば、夫婦の働き方によらず、妻の側が夫に家事を委ねることを好まない場合もあるかもしれません。
妻が行っている家事のやり方や求める水準、夫婦の収入のバランスといった要素も、妻が主な担い手となっている偏りの現状や妻の負担感につながっている可能性がありそうです。
「家事能力」より重要になる、レベル感や妥協点の共有
独身男女が共働きを続けるライフデザインを描いていく上では、夫婦で家族の家計、家事や育児を担える体制でいる方が、どちらかがキャリアアップをはかるために転職や学び直しを行う場合だけでなく、子育てや介護、ケガや病気等で仕事や働き方を調整せざるを得ない場合にも、世帯としての適応力が高そうです。
一方で、家事効率化のための手段や求める家事の水準への価値観を夫婦で共有できれば、家事に優先順位をつけて取捨選択することや、家事の種類によって役割分担をはかること、時短家電を利用することするなど多様な手段を柔軟に検討することができます。
このように考えると、今後は結婚相手に家事能力そのものを期待するのではなく、家事や育児を含むライフスタイルにおいて何を大切に考えて、どんなことにお金や時間を使っていきたいのかの価値観を共有できる人柄かどうかが、これまで以上に重視される時代が来るのではないでしょうか。