はじめに

近年、ブラック企業を根絶しようという流れが世の中に広まっています。企業のブラック度を計る際に、最も参考になる指標の1つが「離職率」です。年間離職率であれば、「その年に会社を辞めた人÷年初の従業員数」によって計算されるのが一般的です。

世の中でブラック企業を排除しようという考えがあるなら、ホワイト企業が株式市場でも評価されるだろうと考えられます。以上から考えた仮説は「離職率が低い企業ほど、株価が上昇する」ということです。今回は離職率と株価の関係を調べてみます。


「ブラック企業」の定義とは何か

思い起こせば昨年の秋、関東地方では台風被害が相次ぎました。過去最強規模の台風15号が直撃した翌日、朝から多くの電車が運休しました。電車の運行が始まると、出勤するため人で駅は大混雑に見舞われました。「出社が難しい状況なのに、出社を強いられた会社がある」として、こうした企業に対して「ブラック」との批判が高まりました。

その一方で、会社から直接「出社しろ」と言われたわけではなく、休暇も可能であったにもかかわらず、個人の仕事に対する意識の問題ではないかとの議論も生まれました。非常時における業務対応プランを会社がどこまで作っていたかというのもありますが、何かにつけて「企業はブラック」と決めてしまうのも正しくないのではないか、との見方もありました。

そもそも、ブラック企業とは何でしょうか。厚生労働省のウェブサイトを見ると、

(1)労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
(2)賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
(3)このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う
となっています。

そして厚労省は2017年5月、これらの項目を具体化した労働基準関係法令違反の疑いで送検された企業リストの一覧を「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として公表しています。政府のブラック企業の根絶に向けた姿勢がわかります。

離職率公表企業は意外と少ない

ところで、たとえば自分が就職したい会社がブラック企業でないか確認したい時、このリストも参考にはなるでしょうが、実際に表面化していないケースもあるでしょう。

その際に参考になるのが、冒頭で触れた「離職率」です。先ほど取り上げたブラック企業の特徴である(1)から(3)がひどければ、辞める従業員が多くなるからです。つまり、「離職率が低い会社はよりホワイト企業」と考えられます。

実はここで、大きなハードルが出てきました。会社の離職率が一般に公開されているものではないからです。就職関係の情報誌などには、会社に対するアンケートの回答から記載しているものもあります。しかし、離職率の計算も企業によって異なっていることがあります。

とはいえ、会社側から正式な公表情報として、報告書などを通じて公開される企業もあります。たとえば、2018年に取得できる企業は東証1部の1.1%に過ぎませんでした。会社側としては、公表を義務化されているものでもないのに、あえて発表する必要はないといったところでしょう。

しかし逆に考えてみると、公表している企業は離職率が低いことを会社のアピール材料と考えていることも考えられます。仮にそうでなくても、少なくとも将来に向けて従業員を大切に扱う姿勢を表しているのでしょう。会社側が従業員の離職状況に関して興味がなければ、公表しようとは思わないからです。

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