はじめに
新街区・丸の内にうまく相乗りした大丸
大丸は東京駅八重洲口にあった古い百貨店店舗を取り壊し、新たに誕生したグラントウキョウノースタワーという巨大で先進的な建物に生まれ変わりました。同時にマーチャンダイズも一気に高級化して、それまでの地方の上京客が帰りに寄る百貨店のイメージから、東京の人が高級品のために立ち寄る店舗へのイメージ転換に成功しました。
ちなみに東京駅では丸の内のブランドイメージが高い一方で、八重洲はどちらかというと一段格が低いといわれてきました。ところが大丸の入るグラントウキョウは八重洲口側にあっても住所は千代田区丸の内です。
都市のコンセプトとしては再開発された東京駅を中心に、丸ビル・新丸ビル、旧国鉄ビル跡地のoazoや東京中央郵便局跡地のKITTEなどと一緒にまとまった新しい商業地エリアです。その東京の新名所にある唯一の老舗百貨店ということで、街の格がワンランクアップする流れを、見事に自分のものにしたわけです。
それに加えて今年、とても注目されたのは銀座松坂屋跡地の再開発でした。
業界に衝撃を与えたGINZA SIX
2017年4月20日、銀座の松坂屋跡地を中心とした街区に満を持して巨大商業施設GINZA SIXが開業しました。これは銀座松坂屋だけではなく、そこと隣り合わせになっていた街区も合わせた2つの街区の一帯開発で、六本木ヒルズの開発で知られる森ビルが手掛けた巨大プロジェクトでした。
オープン直後、来店者が度肝を抜かれたことが2つあります。1つは銀座の中心部にもかかわらず、延べ床面積が14万平方メートルという巨大な施設が誕生したこと。「銀座にもう土地はない」というのが不動産業界の定説だったわけですが、フタを開いてみたら、まだこんなに巨大なものを作る余地があったわけです。
そしてもう1つは、商業施設なのに松坂屋が出店していないこと。時代に併せて海外の超高級ブランドを中心に241もの店舗を誘致する一方、J.フロント リテイリングはその運営の裏方に徹し、松坂屋ではなくGINZA SIXを新たな業態コンセプトブランドとして位置づけようとしていることでした。
百貨店経営にとっては「のれん」がなによりも重要だった。その発想をJ.フロント リテイリングは完全に転換してのけました。松坂屋というのれんを外したところに百貨店業界の未来があることを示したわけです。
実はJ.フロント リテイリングが株式市場に最も評価されているのがこの点です。百貨店という業態が明らかな転換点を迎えている今、J.フロント リテイリングはその収益基盤を不動産事業や物流など新しい収益源に移転させる努力をしてきました。
ビジネスモデルを変える。収益の柱を変える。そして未来的コンセプトの新しい施設を提示していく。J.フロント リテイリングのほうが構造改革という点では三越伊勢丹の二歩も三歩も先を行っているのかもしれません。