はじめに
いわゆる「ブレグジット」の是非を問う2016年6月の国民投票が事前予想を覆す「離脱」という結果となり、世界中の人々をアッと言わせてから約3年半。イギリスが現地時間の1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)に、欧州連合(EU)から離脱しました。
1973年にEUの前身のヨーロッパ共同体(EC)に加わってから47年間、他の加盟国とともに歩んできた英国が袂(たもと)を分かったことで、欧州は転機を迎えようとしています。
なぜブレグジットが決まったのか
2016年の国民投票で離脱派の票が残留派を上回った背景には、移民の問題があったとされています。2004年のポーランドやハンガリーなど東欧諸国のEU加盟以降、多くの移民が豊かさや新たな職を求めて英国へ渡りました。
これを受けて、英国の一部国民の間には「病院に行くと移民であふれており、満足な治療を受けられない」「学校には英語を話せない生徒が大勢いる」「移民が増えたことで家の値段が上昇し、簡単に買えなくなった」などの不満が次第に鬱積していったのです。
投票で離脱派の旗振り役となったボリス・ジョンソン現首相らは、キャンペーンで「Take Back Control(主権を取り戻そう)」とのメッセージを発信。英国民の心をくすぐりました。
第2次世界大戦時の英首相、ウィンストン・チャーチルは1930年に次のようなコメントを残したといいます。「われわれは欧州とともにいるが欧州の一部ではない」。離脱派のメッセージが「われわれは欧州人ではなく英国人」という国民の誇り高きアイデンティティを刺激し、脱EUへ駆り立てたとみられます。
英国民は一枚岩ではない?
ただ、投票は離脱支持が52%に対して残留支持が48%という、離脱派の僅差の勝利。ロンドンやその周辺、金融街「シティ」など、比較的所得水準の高い人が住む地域では、残留票が膨らみました。親EUのスコットランドや、北アイルランドでも残留支持が多数を占めました。
年代別では、英国がEUの一員である時代しか知らない若者の多くが、残留票を投じました。投票は収入だけでなく居住地や年齢などによって、国民の意識が大きく分断された状況を浮き彫りにしました。
英国の調査会社YouGovが2月1日に実施した世論調査によると、ブレグジットについて「恐怖」「怒り」「心配」との感情を抱いている人が全体の計42%に到達。「安堵」「わくわくする」「うれしい」と答えた人の計36%を上回りました。
国民の半数近くが先行きに不安を抱く中での新たな船出。ジョンソン首相は自らの言葉通り、「終わりではなく始まり」とすることができるのでしょうか。
<写真:ロイター/アフロ>