はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
軽自動車から普通車へ乗り換えるため、自動車保険の見直しをしています。一括見積もりは取っているのですが、そもそも自分にどれぐらいの保障が必要なのかわかりません。車両保障はいくらあれば足りるのか、対人保障はいくらあれば足りるのか、弁護士特約などの各種特約は必要なのか、対物賠償は無制限とするのが無難なのか……など考えれば考えるほど迷ってしまいます。一概には言いにくい部分になると思うのですが、一般的な観点から保険の考え方についてアドバイスをいただけると助かります。
また、最近ではカーシェアリングサービスなども充実してきています。そのような状況のなかで、果たして車を持ち続けることが適切なのだろうか。タクシーなどを使い分けることで結果的に節約に繋がるのではないかという疑問もあります。反面、子供と出かける時にはやはり車が便利なのも事実です。漠然とした質問で申し訳ないのですが、お金のプロの見解をお聞かせください。
(20代後半 既婚・子供1人 男性)
野瀬: これは難しいですね(笑)。
質問者の方がおっしゃる通り、適正な水準については一概に言えません。その理由は、人によって走行距離や乗る頻度がまったく違うからです。
頻度が少ないと入らなくてよい。つまり強制加入の自賠責だけでよいのかというと、そうではないことも難しいポイントです。なぜなら、あまり車に乗らない人は運転が下手だからです。
自動車保険のそもそもの意義は?
さて、では保険の保障範囲をどうするのかという難しい点ですが、こういう時は保険の第一義的な話に立ち戻って考えてみましょう。
そもそも保険の意義は、「起こる確率は低いけれど、起こってしまうと自分では対処しきれないことを皆でカバーしよう」というものです。
自動車事故が起きた時に主に怖いのは以下の2つ。
(1)他人を死なせてしまう・重度の障害を追わせてしまうこと
(2)自分が死んでしまう・重度の障害を負ってしまうこと
ほかに物損などもありますが、これらは自賠責&自助努力でなんとかなる範囲が多いのが事実です。
さらに(2)の自身の事故対策については、すでに生命保険でカバーされている方が多いと思います。
そう考えると、自動車保険で重視すべきなのは、対人事故の保障ということになります。その一点のみを重視して特約も付けないようにすれば、車種にもよりますが月1万円もかからないと思います。
保険では「最悪の事態」を保障
ちなみに私は日本でもインドでも車を持っていないので、どちらでもレンタルです。日本ではレンタカー、インドでも月契約でドライバー付きの車を借りています。
日本でレンタカーを借りる時はいつも保険に入ります。なぜなら、そうすることで「最悪の事態」を保障できるからです。
またインドでドライバー付きの車を借りているのも、交通事情が悪いインドでは事故が起こりやすい上に、外国人である私は裁判などになったら不利なので事故が起こった時の責任を私から切り離しているのです。
そう考えると、なにやら保険って投資とも似ていますよね。不動産投資であれば、最悪の事態のひとつである家賃の滞納を免れるために保証会社を入れる、などです。
車を持つべきか、持たざるべきか?
私が車を持たない理由は、私の生活を考えるとどう考えてもコストに見合わないからです。
仕事はインド各都市、シンガポール、香港、東京、名古屋あたりがメインです。プライベートは京都がホームです。シンガポールや香港も、東京、名古屋、京都も深夜でも難なくタクシーは拾えますし、インドでも最近は大都市であればスマホアプリを使えば15分ぐらいでタクシーが来てくれます。
「タクシーなんて高いじゃないか?」と思うかもしれませんが、車を持つトータルコストを考えると、タクシーなんて微々たるものです。
たとえば、車が200万と最初の諸経費50万で250万円だとしましょう。7年乗るとすれば年35万円といったところでしょうか。
駐車場代は都市にもよりますが、月1万5,000円とすれば年18万円、ガソリン代が月1万円とすれば年12万円、自動車保険が月1万円として年12万円、車検が2年に1回で10万円程度ですので年5万円といったところでしょうか。
これらを合計すると年間82万円です。さらに洗車やスタッドレスタイヤなど、細かいコストを考えると、1年あたり90万円はくだらないでしょう。
世の中には、年間90万円もレンタカーやタクシーに払う人はなかなかいないはずです。私はタクシーもレンタカーもよく使いますが、それでも年間20万円から30万円といったところです。
このように考えると、特に都会に住んでいる人にとって車の保有は割に合わないケースがほとんどなのです。もはや都会人にとって車は必要財ではなく、贅沢財になっていると言えます。
ただし、それは私のように子供がいないケースです。お子さんがいるとどうしても学校・駅・塾への送り迎えに車は必要となるでしょう。
私も子供がいる知人友人をたくさん見ていますが、車なしでは生活が成り立ちません。お子さんがまだ小さいうちはよいですが、夜、塾に通い出すようなタイミングで車を購入する必要に迫られると思います。
カーシェアリングという方法もありますが限界があるでしょう。
私の結論です。都会に住む限り、車は原則必要ない。ただし、お子さんが受験のために塾へ通いだしたら車は必要。年間90万程度は家計を圧迫するので、その際に住駐車場が安い地域を狙って住居を変えるなどの固定費改善策は必要かも。質問者の方の状況に応じて、ご判断していただければと思います。