はじめに
足元では中国発の新型肺炎が世界の金融市場の最大関心事となっていますが、この問題が深刻になる前の1月11日には、台湾で4年に1度の総統選挙が実施されました。その選挙結果は、東アジアの地政学バランスに変化をもたらし、ひいては世界の金融市場にも影響を及ぼす可能性をはらんでいました。
結果は、現職の民進党・蔡英文氏が事前予想を上回る圧勝。その背景にはどんな事情があり、これを受けて台湾を取り巻く経済環境はどうなっていくのか、考えてみます。
香港デモ長期化が与党の追い風に
今回の選挙での得票数は、蔡氏が約817万票であったのに対して、ライバルである国民党の韓国瑜氏が約552万票と、大差がつきました。
この選挙の前哨戦として実施された2018年11月の統一地方選挙では、蔡総統の率いる民進党が国民党に大敗し、蔡氏に対する人気低下につながっていました。もともと、蔡総統は就任直後こそ期待感から持てはやされましたが、ここ数年は人気が離散気味でした。2018年の地方選挙は、この流れに追い討ちをかける結果となりました。
この流れが変わるきっかけとなったのが、香港におけるデモです。もともと台湾と香港の間に何らかの直接的な関係があるわけではありませんが、香港の混乱が台湾にとっての反面教師となっています。
香港のデモは中国本土から香港への締め付けに対する反発などが主要因となりました。このデモの長期化によって、台湾で中国に対する反発が強まりました。蔡氏は総統に就任する以前から一貫して「反中」の方針を示しており、その姿勢が国民からの評価を高めることとなりました。
今回の総統選挙においても、「現在の香港を明日の台湾にしてはいけない」と主張。中国と距離を置く姿勢を改めて強調したことが、国民からの支持を高める結果につながりました。香港のデモ長期化は、台湾の総統選挙において蔡氏にとっての追い風になったといえます。
台湾経済の“生命線”も復調の兆し
そしてもう1つ、選挙における流れが変わるきっかけになったのが、世界の半導体関連市場に好転の兆しが出てきたことです。以前から台湾≒ハイテク(半導体)と目されるほど、ハイテク市況との相関性が高く、半導体市況は台湾経済の先行きを占ううえでの重要なポイントの1つです。
ここ数年、特に2018年後半以降の世界経済では、米中貿易摩擦、英国のEU(欧州連合)離脱、中国経済の成長減速など、さまざまな悪材料を抱えて、景気敏感の代表である半導体市場の悪化が目立っていました。
半導体市況に対する影響度が大きい携帯電話(スマートフォン)の売れ行き不振など、実需の低迷もあり、半導体そのものの需給の悪化や価格の下落にもつながっていました。
そうした中で、世界の半導体市場の動向を調査している「2019年秋季半導体市場予測会議」が11月19~21日の3日間、台湾の台北で開催されました。この会議は、世界半導体市場統計(WSTA)が年2回、原則5月と11月に開催しているもので、半導体市場の現状と先行きについて話し合いが行われています。
<写真:ロイター/アフロ>