はじめに

リクルーターの巧みな話術

リクルーターの男が電話をかけてきました。

「仕事の内容ですけれども、保証金のあり、なしがあるんです。保証金というのは、先にお金を払ってもらう、保証ですね」

と言います。実際、募集の書き込みのなかにも、保証金の文字を多く見かけます。

まず「保証金なし」の仕事の内容を尋ねると、

「今、保証金ないやつですと、『受け出し』っていう形になるんですけど」と言います。

「受け出しとはなんですか?」と尋ねると「こちらが電話をかけて、キャッシュカードをすり替えてもらうものです」と答えます。

これは被害の多い手口で、金融機関や警察を騙って高齢者の家に赴き、封筒に相手のキャッシュカードを入れさせ、相手が目を離した隙に偽物の封筒にすり替えて、相手のカードを騙し取る手口のことです。

「引き換えたカードをATMで引き出してもらって、100万円引き出したら、報酬は5%です。100万円だったら、5万円ですね。仕事は平時の午前9時から午後6時までです」

さらに相手は「交通費も1日4,000円出します」ともいう。そもそも、こうした怪しげな求人には、お金に困った人が応募してくるものです。そうした人たちにとって、交通費4,000円を出してくれることは、とても嬉しい気持ちになることでしょう。さも相手のことを思いやっているような手段も使って犯罪に誘ってきます。

「ブラックな仕事になるんですけれども。捕まるとかも一切ないので」

今、詐欺のお金やカードを取りにいく、受け子の逮捕が相次いでいます。そうした逮捕への不安な気持ちを払拭することも怠りません。

「うちで扱っている受け出しは、300人扱っているんですけれども、そのうち4人しか、逮捕者はいなんですよね。リスクも全然なくて」

すでに4人も逮捕されているのですから、「リスクが全然ない」というのはおかしい話ですが、あえてそこは突っ込まずに、次の「保証金ありの仕事はどうなんですか?」と尋ねてみました。

「報酬は多くて100万円とか、3桁というのもありますし、リスクもあるんですけれども」

「どんな仕事なのですか?」と聞くと、「荷物を運んでもらったりするんですね」と答えます。今、金塊や違法な薬物などを運び、逮捕される事例も多いですが、そうしたものなのでしょうか。

「どんなものを運ぶんですか?」

「モノによって変わるんですけど、それに詳しい人間がいるので、代わりますね」

「もしもし」

先ほどの人とは違い、手慣れた感じで話を始めます。

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