はじめに
「保証金あり」の案件とは
「運ぶものってなんですか?」
「100万円とかの単位だったら、クスリとかになりますね」
やはり違法薬物の密輸なのかという気持ちで話を聞いていましたが、男は次のようなことも話しだします。
「運ぶものが1千万円の単位になったら、偽のドル札とかですかね」
なんと、偽札を運ぶ仕事もあるというのです。闇の世界は奥深いものです。もしこれをした場合、外国通貨偽造及び行使等や関税法などの違反に問われて、罪はかなり重くなります。その辺りのことは相手も十分に承知しているようで「偽札って危険なんですよ」と切り出します。
「バレたりするんですか?」と聞くと、「僕らも検挙される前提じゃないんですけど、3分の1くらいです。成功率は」
要は、成功率が低いうえに、かつブツをもって逃走される恐れもあるために、密輸の仕事を実行する前に一定の保証金を納めてもらい、成功したら報酬とともに、そのお金を戻す形を取っていると言います。
ここから彼らの未犯者たちを巧みに誘う話術が見えてきました。
「逮捕される確率は1.5%」
「密輸の仕事は正直、お勧めしません。逮捕されるリスクが高いから」
そして、先に話した「受け出し」をまずやってみたらどうかと言ってきます。「そこで、お金を稼いでから、リスクの高い仕事をしても遅くはない」と説得し始めます。
「結構、僕らかなり(受け出し)やっているんですけど、今まで200人くらいに働いてもらっていて、パクられたのが、3人なんですよね。ものすごく安全ですから」さっきの男は4人だと話していましたが、1人減って3人になっています。
「逮捕される確率は1.5%ですね。200分の3なので。ってことは、98.5%は安全ですから」と、盛んに逮捕のリスクが低いことをアピールしてきます。
さらに、どこの統計かはわかりませんが「コンビニ強盗も3分の2は捕まります。66%は捕まるわけですよ。だから、いかにこれが安全な仕事かわかるでしょう」とも言ってきます。
密輸の仕事と違い、保証金がいらない上に、逮捕の危険度も低いということを訴えながら、今急募している詐欺の受け出しの仕事へと誘おうとするわけです。そして少年少女だけでなく、消防士、警察官などの公務員や、50代、60代といった中高年もこの種の犯罪に手を染めていくことになります。
こうした比較の手法で説得されて「ちょっとやってみようかな」という気持ちになったのかもしれません。終始、男は受け出しの仕事を押し付けるでもなく「でも逮捕のリスクは低いから、やった方がいいよ」と諭すような巧みな話術で誘ってきました。
必ずしも、犯罪に誘うリクルーターが全員、こうした手法を使うわけではありませんが、スマホを使ってSNSで簡単に犯罪者とつながれる時代ゆえに、甘く安心させるような言葉で未犯者を誘う手口には注意しなければなりません。