はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。2月10日の中国国家衛生健康委員会の発表によると、確認された新型ウイルス感染症例が累計で3万5,982件になり、死者は908人に達し、6,484人が重症だといいます。
これは、2002~2003年に蔓延したSARSの死者数を超える数字です。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長も「中国渡航歴のない人々からの新型ウイルス拡大を懸念している」と指摘。今後さらに感染が拡大し、死者も増えていく可能性があります。
一方で、米国経済は依然として力強さを維持しています。2月7日に発表された1月の非農業部門就業者数は、市場予想の前月比+16.5万人よりもかなり強い内容(同+22.5万人)となりました。前月・前々月分も、わずかですが上方修正されました。
米中という2つの大国で好悪両材料が入り混じる、足元の世界情勢。この先の金融市場にどのような影響を及ぼしうるのか、考えてみます。
米国の雇用統計をどう読み解くべきか
米連邦準備制度理事会(FRB)の当局者は、ジャネット・イエレン前議長の頃から「完全雇用が近づく中、毎月の雇用増は10万人程度あれば十分」と発言していました。このことを考えると、足元の米国の雇用市場は強すぎるくらいと言っても過言ではありません。
確かに1月の失業率は3.6%で、市場予想よりも0.1ポイント高い結果となりました。しかし、これは労働参加率の上昇によるものと考えられ、「悪化」と見る必要はないと思われます。
ただし、手放しでは喜べない側面もあります。製造業の雇用が伸びていないのです。われわれが目にする米国の雇用指標は個人部門の指標が多いので、米国経済が非常に強く感じられます。ところが、企業の景況感、特に製造業に目を向けると、先行きへの懸念が強くなっています。
米国の製造業の景況感関連指標は、直近でこそ反発しているものの、2018年半ばから頭打ち状態が続いています。2018年半ばといえば、トランプ関税の第1弾・第2弾・第3弾が発動された時期です。
雇用統計発表を受けた為替市場の反応は、一時的にドル買いとなりました。109円90銭前後で推移していたドル円相場は一瞬、110円ちょうどをつけました。しかし、すかさずドル売りが出て頭打ちとなり、その後は109円台後半での売買交錯に終始しました。これは、目先の米国指標の強さよりも、先行きに対する懸念が大きいからだと思われます。
過剰流動性相場に新型肺炎が冷や水
一方、新型コロナウイルスの感染拡大による死者数は、ついに2002~2003年に蔓延したSARSの死者数を超えてきました。中国経済が麻痺すると、世界経済への影響がかなり心配されます。同国の工場では、日本や米国、韓国などの工場の末端の下請けの部品工場も多いからです。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、大半の工場は旧正月の休業を延長。2月10日時点で、まだ稼働していない工場もあります。中国の部品工場からの納入がストップすることで、前述の国々の工場も部品不足で工場稼働を一時停止するケースも起きています。
昨年、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和を再開し、米FRBも短期債の購入を再開しました。つまり今は、昨年以上に過剰流動性が増えています。これまでは米国の個人関連指標が好調に推移する中、過剰流動性相場に乗って株式に代表されるリスク資産も買えたかもしれません。
しかし、今後発表される各国の企業景況感や企業決算次第で、過剰流動性によって必要以上に押し上げられた資産価格が調整される可能性もあります。他方、新型コロナウイルスの感染が落ち着き始めたり、特効薬が発見されるなどのニュースがあれば、懸念は一気に払拭されるでしょう。
いずれにしても、今は米国の個人関連指標の強さに浮かれることなく、今後の企業関連指標や企業関連ニュースを今まで以上に注視していく必要があると考えられます。