はじめに

価格に影響する“鮮度”

ただ、中古品ですら定価以上のプレミアが頻繁に付き、しかも食品などと違って短時間で品質が劣化するとも思えない時計の価格に、こうした短期の流通停滞が露骨に影響するのはちょっと奇妙です。近藤さんは、特にロレックスのような一部の人気ブランドは、流通において野菜のような一種の“鮮度”を持っている、と説明します。

「ロレックスは新品、未使用、中古品のいずれも保証書の“鮮度”が重要になります。現行品でも古い物なら安くなるし、年式も当然、古い物は安価になる。こういう時に特に上がり下がりが激しくなるブランドと言えます」(近藤さん)。特殊な価値を持つ一部のビンテージ品を除けば、「新しいほどプレミアが付きがち」な性質を持つがゆえに、流通が滞ると価格が高騰傾向になるという、生鮮食品にちょっと近い動きをするのだそうです。

無論、ロレックスを株のような投機目的で購入する人も少なくないため、「価格が上昇している時にさらなる値上がりを期待して購入する」ような動きが、価格をさらに吊り上げている可能性もある、とみています。

価格変動が見えにくい

近藤さんによると、国際情勢の激変が時計価格を乱高下させた例は他にもかなりあるそうです。例えば、英国のEU離脱表明(2016年のブレグジット)ではポンドが急落、円高の影響が直撃しました。他にも米国のトランプ大統領選出など、特に為替が大きく動く情勢変化が時計価格に影響を与えてきました。なお、香港デモは意外にも時計価格にはさほどの影響を与えなかったそうです。

近藤誠さん

ロレックスをはじめ、アクセサリーだけでなく株のように投資目的で買う人も少なくない高級時計ですが、やはり初心者がいきなり儲けようと狙って購入する行為は、その難しさから一般的にはあまりお勧めされていません。ただ、近藤さんは「例えば競馬ファンが血統などの情報から(馬券を)当てるように、時計投資も詳しい人ならできないわけではない」と説明します。

ただ、コロナウイルス問題については、全世界的に収束への先行きが極めて不透明なこともあり、時計業界への今後の影響もやはり未知数だとか。「今は一時的に(ロレックスなど)流通量が減っているが、中国人の消費のはけ口が(特に春節時に)止まってしまった影響は、予測がつきません」(近藤さん)。

株や外貨と同様、「高級時計投資」も相当に一筋縄ではいかない世界、と言えそうです。

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