はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
お金のプロのみなさんに、これまでで一番有益だったお金の使い方について聞いてみたいです。難しければ、一番失敗したお金の使い方でもかまいません。よろしくお願いします。
(30代前半 独身 男性)
野瀬: 人生の最期を迎える人が最も後悔することはなんだと思いますか?
それは、なにかを「した」ことではなくて、なにかを「しなかった」ことなのだそうです。
興味のある仕事に就かなかった、好きな女性に告白しなかった、勉強したかった学部に入らなかった、子供ともっと遊んでやればよかった……とにかくなんでも躊躇したり面倒くさがったりして、人生の「やらなかった」後悔が大部分を占めるそうです。
……と、ここまでは自己啓発などでよくある話なのですが、私自身はこの話に対して半信半疑です。
確かにいい話のように聞こえるのですが、これにはもう少し補足がいるように思います。
人生の二大後悔とは
私自身の人生を振り返ると、前述の「本当はやりたかったのに人の目を気にしてやらなかったこと」に加えて、「本当はやりたくなかったのに人の目を気にしてやってしまったこと」も併せたものが、人生の二大後悔です。本当は「やった」後悔もたくさんあると思うのです。
たとえば私の場合、生来スポーツが苦手だったので本当は運動部になど入りたくはなかったのですが、当時の雰囲気として「男は黙って運動部」というような空気があったので、結局、運動部に入ってしまったことを今でも激しく後悔しています。
楽しくない放課後が3年間も続くのは本当に苦痛でした。あの膨大な時間でもっと大好きなドラクエをしていたらよかったです。
この考え方は、お金の使い方にもアレンジできると思います。
「ほしい!」と思っていると自分では思い込んでいても、それが人の目を気にした購買意欲ということはよくあることです。そして心の奥底ではまったく興味がないことである場合、そのお金の使い方は100%失敗するでしょう。
なにかほしいものがあるときは「本当に好きか」と3度、自分に問いかけてください。
もうひとつ、お金の使い道で付け加えると、それは「2度とないかどうか」という観点です。
自分がめちゃくちゃ好きなものでも「いつでも買える」ものはあると思います。マイホームなどは、その際たるものでしょう。
家がとても好きな人は「本当に好きか」の要件を満たすので本来家を買うべきなのですが、これは「いつでも買える」ものとも言えます。
自分のほしい家が安値で出るタイミングをしっかり見計らい、有利な条件でローンを組める時や税制がお得な時に狙いすまして買うべきでしょう。
具体的な成功例は?
これらを踏まえて、個人的なお金の使い方の成功例・失敗例を挙げていきます。消費と投資に分けて考えたほうがよいかと思いますので、それぞれいくつか挙げたいと思います。
まずは成功例です。
消費:好きなアーティストのコンサート
基本的にアーティストのコンサートは直近に出したアルバムを中心に行われるので、「2度目がない」代表的なものです。金額にして5,000円ぐらいなのですが、本当に好きなアーティストでしたので、今でもよい思い出になっています。この思い出を死ぬまで引きずると思えば5,000円など安いものです。
そしてこの思い出を引きずる長さは、「本当に好きかどうか」によるのでこれが本当に重要なのです。
話が少しズレるかもしれませんが、ヤフオクで大好きな中古ゲームソフトが出品された時もそうかもしれませんね。
私は病的にゲームが好きなので「2度と出ないかもしれない」レアなレトロソフトが出品されると買ってしまうのですが、「本当に好きなもの」なので後悔したことはまったくありません。むしろ、その後にまた出品されたという情報がないので、本当に「買うべきだった」ものということになります。
投資:少額の不動産投資
私は日本で少額の不動産投資をしているのですが、これが今でも安定した収益を生み出してくれます。もともと実家が建築関連の仕事をしていることもあり、不動産物件を見ることが好きで、たくさんの物件を自分でしっかり見学・吟味してから購入しました。そのため、仮にしばらく空き室になったとしても後悔はなかったと思います。
また少額であったため、「もしこの投資がコケたらどうしよう」という不安を抱くことなく、精神衛生上よかったと思います。ハラハラして本業に影響を出したくないですからね。
一方、失敗例も…
消費:高額セミナー
私はこれまで投資からビジネススキルに至るまでたくさんの有料のセミナーや講習に参加しているのですが、やはりなかには「まったく役に立たなかったセミナー」というものもあります。
具体名は避けますが、今になって思い起こすと「興味はなかったけれど、当時流行っていたし、有名人も勧めていたから……」と参加してしまったのがマズかったのだと思います。
やはり「本当にやりたいことかどうか」のフィルターは大事ですね。10万円以上払いましたが、お金の使い方の高い勉強になったと思うしかないです……(笑)。
また逆に「本当は興味なかった」からこそ、そのセミナーを役に立てることができなかったとも言えます。私は会計士の専門学校には年間50万円ものお金を払いましたが「本当に会計士になりたかった」ので一生懸命勉強して試験にも合格し、元を取るとることができました。
ですので、「本当に好きか」というのはここでも重要な要素だと思います。
投資:勧められて購入した株
投資を始めたばかりのころ、欲が出たのと自分で考えるのが面倒だったこともあり、いわゆる有名投資家が「買うべし!」と言っている銘柄を購入したことがあります。ところがこの株がどんどん値下がりするのです(笑)。
現在は当初の5分の1ぐらいでしょうか。私は早く損切りしたので、被害は小さくてすみましたが、この手の「自分の意思ではなく、人の意見を鵜呑みにして買ったもの」は私に大きな後悔を残しました。
やはり投資であっても「人の目を気にする」のではなく、「自分が本当にいいと思うか」という最終意思決定が絶対に必要だと思います。
繰り返しになりますが、消費であろうと投資であろうと大事なのは「本当に自分が好きか」「2度とないか」という2点だと思います。
この2点を心の中で呪文のように唱えていれば、お金の使い方を間違えることはないでしょう。みなさんもこの2つの切り口でご自分の満足や後悔を分析してみてはいかがでしょうか?