はじめに
“リーマンショック級”を回避するには?
もっとも、感染症の専門家ではない、筆者を含めた金融市場関係者の想定には限界があります。一方で、中国当局の発表が正しければ、同国では感染者の拡大はすでにほぼ終わっています。今後1ヵ月程度で、世界各地でも中国同様に感染拡大が一服する、というのが現在の筆者の想定です。
これを前提に米国経済の先行きを展望すると、3月から夏場にかけて米国経済は経済活動の制約・自粛が広範囲に起きるため、個人消費を中心にマイナス成長に陥ると見込みます。これで米国でも軽微な景気後退となり、リーマンショック以降、約11年にわたった景気拡大局面が終了する可能性が高いとみています。
しかし金融市場で懸念されているのは、軽微な米国の景気後退よりも大きなリーマンショック級の経済活動の大収縮でしょう。今回は新型ウイルス感染という近年経験したことがない不確実要因があり、予想は困難ですが、2008年のリーマンショックのように経済活動が激しく落ち込む可能性は現状低いと考えています。
理由の1つは、トランプ政権の政策運営は経済成長重視が徹底されている点。2つ目は、2008年の金融システム崩壊を招いた、資産価格の高騰や金融機関の行き過ぎたリスクテイクが、現状は起きていないと判断される点です。
2008年に起きた世界金融危機は突き詰めれば、リーマンブラザーズを破綻させ、金融システムを麻痺させた、当時のブッシュ政権と当局者の対応がもたらしました。こうした意味で、トランプ大統領の危機対応がしっかり機能するかどうかが、コロナウイルスの感染拡大よりも重要になる、と筆者は考えています。
具体的には、ウイルスの感染拡大に伴う経済の落ち込みを和らげるために大型減税を中心とした十分な対応を繰り出せるか、そして想定される金融システムの揺らぎに適切な措置を行うかが重要でしょう。トランプ大統領の政策対応により、2008年のような世界経済の崩壊は回避されると現状考えています。
<文:シニアエコノミスト 村上尚己>