はじめに

部下のミスを、ついキツく叱ってしまって後悔することはありませんか?

誰かを指導する立場になれば、相手や会社の成長のために言いにくいことを伝えるのも仕事のひとつ。しかし、その本意が本当に伝わっているのか……と思い悩む管理職の方は少なくないようです。


上司との良好な関係が退職を防ぐ

「3年3割」と呼ばれている問題があります。大学卒業後、新卒入社した社員の3割が3年以内に離職する現状を示しています。

もちろん今や転職はめずらしいことではありません。しかし、3年以内に会社を辞めた人の本音を聞くと、離職の理由はポジティブなものだけではなさそうです。

全国412名に対して、新入社員の時「仕事や勤務先に関してイライラしたこと」を調査した結果、そこには上司の不適切な発言や理不尽な怒りに対する悲痛な声が。

・上司が自分の間違いを認めない(女性/25歳/愛知県)
・なにを言っているのか聞き取れないほど叫びながら、怒られた(男性/24歳/滋賀県)
・「残業するのはお前らの仕事が遅いからだ。残業代は出さないから」と言われた(男性/23歳/東京都)
・「死ね」と言われた(男性/23歳男性/東京都)


日本アンガーマネジメント協会調べ。調査内容:「仕事や勤務先関して怒りを感じたこと」について単一回答、複数回答にて調査を行い分析

また同調査で、新卒入社した会社を「3年以内に辞めた人」に対して、「どうすれば退職を回避できたと思いますか?」と聞いてみると、28.2%が「上司との良好な関係」と回答。続いて22.6%が「上司からの適切な叱られ方」と答えました。

職場において上司との関係性を重要視する人は多く、もし納得できる伝え方をされていたら「退職を回避できた」とまで考える人が多数存在することがわかります。

怒りをコントロールして上手に叱る

一方で上司の立場になると、部下のミスを注意したり、モチベーション鼓舞のために厳しい言葉をかけることは避けて通れない道。何度言っても同じ間違いを繰り返す部下に、「もういい加減にしろ!」と怒りを覚えることもあるかもしれません。

しかし、感情に任せてその怒りをぶつけても、部下のミスは改善されないどころが離職の理由となることも。きちんと納得してもらうためには、どうしたらいいのでしょうか。

“上手な叱り方”を身につけるために今、注目されている方法が「アンガーマネジメント」です。怒りの感情を無理に抑えるのではなく、うまく付き合っていくための心理トレーニングです。

日本アンガーマネジメント協会・代表理事の安藤駿介氏は、著書『叱り方の教科書』のなかで、「怒り」をまず自分自身のなかで受け止め、どうすればよい状況へ変えられるのかを考えて相手の受け止め方を配慮して伝えることが「叱る」ことだと定義します。

そして叱る行為は、叱られる側との信頼なくして成り立たないもの。叱る以前になによりも大事なのが、叱られる側に心を開いてもらうこと。この前提がないと、叱っても意味がないと安藤氏は語ります。

叱っても好かれる人の条件

そして信頼関係を築いたうえで、どんなに叱っても部下がついてくる上司には共通した条件があるそうです。

<叱って好かれる人の条件>
(1)素直に怒れる
(2)ルールを明確に怒る
(3)人のために怒れる

1の条件は、人の顔色をうかがうことなく素直に怒れる人。例えば松岡修造さんの叱り方はこの典型だそう。

2つ目の条件は、叱ると決めたら誰であってもいつでも叱ること。「入社間もない新卒だから……」と、大目にみて優しく叱るようなことはとくによくないと、安藤氏は語ります。

「立場によって叱り方を変えると叱られる側は混乱してしまうので、誰に対しても同じように叱ることをおすすめします」(安藤氏)

3つ目の条件は、嫌われる可能性があっても相手のために言いにくいことを伝えるという、リスクある行動ができる人だと言います。

そして「みんなの前で威圧するように叱る」「日によって人によって態度を変えるような叱り方をする」「自分の責任回避のために叱る」このような叱り方をすると、部下の心はどんどん離れていくとつけ加えます。

「叱る目的は、相手にこちらの希望通りに動いてもらうこと。そのため、叱ることは要求を出すということです。適切に叱ることができれば、要求は正しく伝わり、結果、叱る側の望むような行動をしてもらえる可能性は高くなります」(安藤氏)

実践は難しく感じるかもしれませんが、叱ることは「技術」なので、練習すれば誰でも上達すると安藤氏は言います。

アンガーマネジメントでは、カッとなったときの怒りは「6秒」でピークを過ぎると言われています。

まずは部下との信頼関係を築いた上で、怒りをコントロールし、適切な叱り方を身につけることが、頼れる上司になるための近道となりそうです。

アンガーマネジメント 叱り方の教科書 安藤俊介 著


誰かを指導する立場になれば、「叱る」ことは欠かせない仕事。叱ることが苦手だからといっても仕事である以上、逃れられない。ならば叱ることの意味をきちんと理解し、上手な叱り方を身につけよう!

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