はじめに
マクロン大統領のテレビ演説で、フランスの外出制限は5月11日以降、段階を追って解除されることが明らかになりました。新型コロナウイルス対策として3月17日正午に始まったフランスの外出制限は、これで暫定的に通算8週間となる見通しです。
外出制限は、ほとんどのフランス人にとって人生初の体験です。現在フランスは、必要最小限の外出のみ許され、外出には必ず移動証明書を携帯。違反者には138ユーロ(約1万6千円)の罰金が課される生活が続いています。この前代未聞の事態を、日頃拘束されない自由を何より大切にするフランス人自身が、一番心配したことでしょう。
ところが実際は、過去にフランスではジスカール・デスタン元大統領が「フランスには原油はないが、アイデアはある」という言葉を残したように、外出制限に入るや否や、柔軟にポジティブな動きを見せました。
閉鎖空間のスペシャリストたちが助言
外出制限が始まった当初のメディアの動きがユニークでした。例えばラジオ局フランス・アンテールは、「外出制限のエキスパート」として宇宙飛行士のジャン・フランソワ・クレルボワ、潜水艦調査を体験した女性ジャーナリストのナタリー・ジベール、ヨットで世界一周単独航行した冒険家のフランソワ・ガバールらをゲストに招きました。電話で彼らが経験した極限体験と現在置かれた外出制限を比較させたり、アドバイスを求めたりしたのです。専門家たちの人選に遊び心が感じられました。
宇宙飛行士のトマ・ぺスケも、自らのSNSで自宅での過ごし方について助言を発信しました。現状を嘆いたり心配したりするよりも、これを未知の体験への招待状と捉えたほうがまだサバイバルしやすいはずです。
心配や不安には別の枠を設けて、大臣や感染症専門医からの情報を提供し、対応する。まずは明るい切り口でメンタル維持を優先するということをフランスメディアは選択しました。
このような発想の転換で切り抜けるやり方は、フランス人らしい傾向と言えそうです。フランスの統計調査機関Elabeが調べ、フランスのテレビ局BFMが報じた4月8日の調査結果によると、国民の67%が3週間経過した外出制限生活のメンタルを「良好」と回答。
調査時は暫定的に4月15日までとされていた外出制限を、5月以降まで延長することに58%が同意し、わずか11%が4月15日で限界と答えています。
メディアにのぼる国民の声には不平不満も多いのですが、必ずしも彼らが現状に満足していないわけではないということになります。逆に言うと、不満も意見として届ければ健全ですし、社会にとって有益でしょう。