はじめに
コロナで仕事が不安定に
「そういえば夫から先妻さんの話を聞いたことがなかったんですよね。共通の知り合いから聞いたところによると、とても仲のいい夫婦だったみたい。気を遣って私には言えないのか、あるいは自分だけのいい思い出にしたくて私には言わないのか。それはわかりませんが、ずっと先妻さんのことを思い続けているのかもしれません」
再婚するにはそれなりの覚悟が彼にもあったはず。彼を信じたいけれど、彼女自身も「心から惚れ込んで結婚したわけではない」という引け目があり、なかなか彼と真正面から向き合うことができなかったようです。
そしてこの新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、マナミさんは自宅での勤務となったがその後、会社から業績の悪化を理由に自宅待機と変わってしまいました。そこまで企業として体力が弱っていたとは知らなかったのでショックだったといいます。
「夫にもそのことを伝えました。夫は変わらず出社しなければいけない仕事なので、『あまり気にしないで、少しゆっくりするつもりでいればいいよ』と言ってくれたけど、私としては給料が入ってこないのはつらくて……。いくら夫が年上だからって甘えるのは気が引けて。それでふっと思ったんです。先妻さんの宝石、ひとつ売ってみようかなと」
ずっと気になっていた宝石や着物。いつか処分したいと思っているところへ自宅待機のストレスが募り、ふと魔が差したのかもしれません。
ひとつだけ売ってみたら
「私は宝石に詳しくないので、ちょっと目立つ石がついたものを近所の買い取り専門店に持っていってみたら、100万円近くになったんですよ。前の奥さんがもともとお金持ちなのか、夫が買ったものなのかわかりませんが、いいものをたくさん持っていたんでしょうね」
その現金はさすがに自分の口座に入れるわけにもいかず、マナミさんのクローゼットの隅に置いてあるそうです。夫は何も言わないので、おそらく前妻の宝石などをチェックはしていないのでしょう。マナミさんは実のところ、夫が気づいていないことにホッとしているのではないでしょうか。
「夫が前の奥さんをどう思っているのか、それが気になっているのは確かなんでしょうね……。あれを全部売ったらいくらになるのだろうと思うと同時に、それでも夫は気づかないのだろうかとも思ったりして……。でも私、あのお金は自分では使えない。それなら売らなければよかったのに、何をしているんでしょうね」
夫の愛情のありかを知りたい。本当はそう思っているのかもしれません。マナミさんは今ももやもやを抱えながら、夫の好物を作って日々、過ごしているそうです。