はじめに

世界最大の家具小売店IKEAに、6人目のCEOが誕生します。9月就任予定のイェスパー・ブロディーン新CEOは、これまでの強みの強化に加えて新しいことにも挑戦すると表明しました。

今年の2月に書いた「IKEAの通販が本格的に始まる」という記事では、通販によって顧客拡大が期待できると顧客目線で分析を行いましたが、経営者の立場から見るとそれは少し違った見方になるようです。

独自の製品設計と巨大店舗による販売モデルに強みを持ち、日本でも高い人気を誇るIKEAは未来に向けて変わっていくべきなのでしょうか? 新CEOの考える経営環境についてまとめてみましょう。


IKEAを支えるビジネスモデルとは?

スウェーデン発祥のIKEAは、世界最大の家具製造小売業です。ここでは驚くほど安く、北欧的デザインのすてきな家具が手に入ると人気です。

同社の成功を支えたのは独自のビジネスモデルです。家具はすべて組み立て式。だから組立コストがかりません。

そして組み立てる前の商品は平らな段ボール箱にぎっしりと詰め込まれたかたちで梱包されています。この独特の設計によって、倉庫の保管コストから世界中の店舗への輸送コストまでが、しっかり節約できているのです。

またコストという点では、店舗の立地も重要です。表現の仕方はさまざまですが、「ハイウェイ沿いのそれまでは畑だった場所に巨大な店舗と駐車場を作り、新しい人の流れを作る」というのが、IKEAの伝統的な出店ノウハウです。

世界の大都市近郊にはだいたいそのような場所があるのですが、IKEAは集客力があるため、そういった場所にあっても店舗ができれば車に乗って顧客のほうからやってきてくれるわけです。

“ついで買い”がIKEA成長の原動力に

この独特な立地政策はIKEAの店舗コストを引き下げるために大いに役立ってきました。

さすがに日本ではハイウェイ沿いの大きな畑……というわけにはいかなかったのですが、京葉道路沿いの巨大な倉庫や、JRの巨大な車両倉庫跡地といった一定の広さのある場所を見つけることで、よいスタートをきることができました。

IKEAの巨大な店舗は“迷路”だと言われることがあります。例えば、電球が一個ほしいだけの客でも、巨大店舗を順路に沿ってわざわざ一周しないと電球売り場に到達できないように設計されているのです(もちろん近道はあるのですが、何度かIKEAに通ったリピーターでないと発見できないような作りです)。

これは顧客に、あれこれと「ついで買い」させるビジネスモデルのためです。

リビングに新しいソファを置きたいとIKEAを訪れた夫婦は、売り場を一周するうちに、寝室用のベッドカバーや、すてきなフォトフレーム、機能的なキッチントングなどを発見し、ついショッピングバッグに入れてしまうのです。

新CEOはEコマースに挑戦すべきか

このように、これまでのIKEAは「独自設計の組み立て家具」「独自発想の店舗立地政策」「巨大な周回型店舗による顧客の衝動買い」という3つの強みで世界一の家具製造小売業の座を勝ち取ってきました。

さて、ここまでの話と新CEOの新しい挑戦には強い関係があります。

かねてからIKEAを取り巻く経営ウォッチャーが指摘してきた2つの環境変化に今後どう取り組むかによって、従来の強みにひびが入る可能性があるからです。

IKEAを取り巻く2つの変化、それはEコマースの台頭と、家具のIoT化の流れです。

IKEAの家具をインターネット通販で購入したいという顧客の声は大きく、4月からは日本でも本格的なインターネット通販が始まりました。

しかし送料が高かったり、店舗がない地方には配送が行われなかったり(中部地方は新潟県以外に配送不可)と、さまざまな制約があるようです。

どうやらIKEAはインターネット通販とはまだ一定の距離を置こうとしている様子。IKEAがインターネット通販に後ろ向きなのはなぜなのでしょうか?

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