はじめに
既存の強みを壊してまでインターネットに出るべきか?
これまでのIKEAがインターネット通販に後ろ向きだったのは、そのほうが結果としてビジネスに都合よかったからです。
IKEAのすてきなデザインのソファが、2万9,900円で手に入るというのは顧客にとってうれしいことです。そして、ひとたびIKEAに入った顧客は実は魔法にかかってしまうのです。
ソファだけでなく、テーブルも椅子もカーテンも、すべて北欧風の家具で統一したい――。
IKEAの成長は、このように顧客の感性を教育したところに立脚しています。「すてきなランプシェードがほしい」とIKEAを訪れた人が、お店を出るころには「いつか部屋中をこんな風にしたい」と夢見る顧客に変わる。これがIKEAの成長の原動力なのです。
新CEOの苦悩
ところが今、時代がそれを許さなくなりつつあるわけです。ミレニアル世代と呼ばれる1980年以降に生まれた人たちは、お金についても時間についても節約志向が強いことで知られています。彼らは、すてきなものを見つけたらインターネット通販ですぐに手に入れたいと主張します。
IKEAとしても、この世代の要望を無視し続けることは難しいでしょう。いずれ本格的にネット通販を始めざるを得ないと思います。
そのタイミングをいつにするのか? 新CEOはまだアクセルを踏まないつもりに見えます。
ネット通販の利便性は、IKEAの強みである店舗立地と顧客の衝動買いを弱めてしまうでしょう。このバランスをどう考えるのか。これが大きな悩みとなるわけです。
そしてもうひとつ、近未来の家具はIoTによって進化するという流れが始まっています。
以前のコラムで紹介しましたが、アップルやアマゾン、グーグルといった企業が家庭内にスマートスピーカーを持ち込み、それを起点として家中の家電をコントロールする時代がもうそこまでやってきています。
これに反応し、プロディーン新CEOはIKEAの自社商品開発の方針を転換させると表明しました。これからは外部の企業と提携して、新しい体制での家具開発を始めるというのです。
直近では照明器具をアマゾンのAlexaやアップルのSiriなどの音声アシストサービスに連動させると発表しています。さらにベンチャー企業に声をかけ、IoT時代の新しい家具のアイデアを広く募集するような動きも始まっています。
こちらも時代の要請として必要な動きであると同時に、IKEAの経営にとっては諸刃の剣になります。
独自の商品開発、独自の立地政策、そして顧客を育てる店舗販売モデル。3つの強みが時代の転換点に差し掛かっている今、IKEAは未来をどう選ぶのか。新CEOの挑戦に注目したいと思います。