はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
町のクリニックで常勤の医師をしています(開業医ではありません)。家族は妻34歳、娘2人(4歳、0歳)、子供が増える予定はありません)。夫婦お互い一人っ子で、両親はリタイア済ですが健在。現在は皆、60代後半で、将来的に全員の面倒を看る可能性があります。同居が可能であればその選択肢もありますが、施設に入居しなければいけない場合も人的・金銭的な援助を行うつもりです。
妻は看護師でしたが、現在は専業主婦ですので、私一人で一家4人から最大8人を金銭的に支えなければならなくなる可能性があります。将来の出納と資産運用についてアドバイスいただけますでしょうか?
【収入】
・クリニックより額面月収130万円(手取り月90万円程度)
・アルバイト先より額面月収260万円(手取り月200万円程度)
・源泉徴収で10%程度引かれていますが、加えて確定申告で30~35%程度を支払っています。
・いずれもボーナス、退職金はありません。
・5年から10年後、系列のクリニックの院長に就任予定。院長就任後、アルバイトは半減予定です。
・60歳で定年ですが、毎年更新のかたちで再雇用されるので70歳ごろまで働ければと思っています。
【資産】
現預金:100万円
外貨定期預金:50万円
投資信託:20万円
自宅:一軒家8,500万円(土地代含)で購入
変動金利1.3%の35年ローンでローン残高は約7,500万円
【月の支出】
住宅ローン返済:30万円
生活費(食費、光熱費、日用品、旅費、交際費、書籍代など):80万円から100万円
自動車(車庫代含):20万円(10年後には車庫代3万円と維持費、税金で数万円程度となる予定)
保険料:終身保険7万円(65歳満期、解約時2,000万円+2,000ドル)、学費保険11万円(18歳満期、解約時1,000万)
娘の口座への生前贈与:6万円を2人分
【資産運用】
確定申告での支払いを考慮しても月に数十万ほどを投資に回せそうです。学費(2人とも医学部進学を前提)、介護費用、自分たち夫婦の老後費用を捻出しようとした場合の効率的な運用方針をお教えいただければと存じます。
(30代前半 既婚・子供あり 男性)
野瀬: 「キャッシュフローゲーム」という有名なゲームがあります。人生ゲームのようなボードゲームです。
最初にカードを引いて「職業:医者」を引き当てると、一見、お得な気がするのですが、結局は毎月の支出が多くなり、さほど手元にはお金が残らないという仕組みで、現実をよく表現しているなぁと思ったものです。
医者の家計簿に思うこと
私の知人やお客様にも医業の方がいらっしゃいますが、その方たちと話していていつも思うのが、毎月の支出の多さです。
普通の感覚で考えると、お金には絶対に苦労しない水準の収入なのですが、幼稚園からの早期教育や小学校受験など、教育費で多額の費用がかかるようです。
また、これも知人から聞いたのですが、この世の中、お医者様に対しては高いものが売れると思うらしく、相手がお医者様と聞いた瞬間に、どの業者さんも自分の持つモノ・サービスのうち一番高いものを売ろうとするのだとか。
その代表的なものが車でしょうか。このあたり、私にはまったく縁のない悩みなのですが、持てる人には持てるからこその悩みがあるのでしょうね。
さて、ご質問者の方の家計簿を少しシミュレーションしてみましょう。
額面収入が合計390万円、手取りが源泉税と社会保険を引いて290万円、さらに確定申告時に税率として30%から40%程度を引かれるとおうかがいしています。
「額面390万円×12か月」の年収4,680万円での手取り額は、おおむね3,000万円になりますので、月々の手取りとしては250万円ぐらいでしょうか。
いただいた生活費や住宅ローン、保険などを加味すると、毎年の貯金額は1,000万円程度になります。
また今後、院長に就任とありますので、月収を額面180万円、アルバイトの月額報酬を130万円として年収約3,700万円、手取りを約2,500万円で計算します。そうなりますと、毎年の貯金額は700万円程度になるかと思います。
もちろん院長になられるので、クリニックの業績がよければそれなりに給与は上がると思いますが、あくまでも保守的にシミュレーションしたいと思います。
今後の家計シミュレーション
(1)上がり続ける教育費
お子さんが2人とも医学部に進学予定とありましたので、小学校から私立&塾に通うと想定してシミュレーションしました。お2人のうち1人は公立の医学部、もう1人は私立の医学部を想定しています。
(2)車への支出は10年で終わらない
10年後には車庫代と維持費だけになるとおうかがいしていますが、おそらく10年経てば車を買い替えられると思いますので、このあたりはほぼ死ぬまで続く固定費と考えます。
(3)生活費を下げるのは難しい
本来の私であれば、年間1,000万円を超える生活費を800万円程度に下げるように改善を提案するのですが、私のお客様を見ていても、お医者様の場合、それ相応のお付き合いもありますので、生活費を下げるのは難しいと思います。
またお子さんに将来クリニックを継いでもらうためにも教育費を下げるわけにもいかず、このあたりはリストラできない分野と考えました。
さて、そんな前提で85歳までのシミュレーションを組んでみたのですが、教育費をきっちり払っても、介護の問題を度外視すると家計が破綻することはありません。
介護の問題についてですが、ご質問者の場合、ご自身も奥様も一人っ子で合計4人の老後を看るというのはたしかに理論上はにそうなのですが、果たして本当にそうなるのでしょうか?
ご両親の資産状況は存じ上げないですが、基本的にお子さん(ここではご質問者)を医者にすることができるほど教育投資ができる家庭というのは、富裕層である可能性が非常に高いです。
しかも年齢も60代後半とありますので、お給料も福利厚生も非常によい時代です。
さらに今はリタイアしているという点でも、将来の不安があまりない方々だと思います。
将来的に介護が必要となり施設に入ったとしても、想定される月30~40万円程度の費用は、ご自身の資産から賄える人たちである可能性が高いのではないでしょうか(もちろんご質問者の資産からでも賄える水準)。
むしろ、将来的にはご質問者の方に4人からの遺産が集中するともいえると思います。また、性別も違う4人のうち、全員が同時に介護が必要になる可能性はあまり高くないので、過度に心配しなくてもよいかと思います。
リスクを取らない投資を
さて、そんな前提での資産運用ですが、破綻することもなく差し迫った脅威もない以上、リスクの高い運用をする必要はありません。逆に、お医者様の場合は「投資を売る側」が営業したがる立場であることに注意してほしいと思います。
リスクを取らない投資としては、以下のような方針がおすすめです。
・教育が一番の投資なので、お子さんの教育にはお金を惜しまない
・余剰資金の4割程度での積立投信。あとは預金に回す
・お子さんが医大に行くことが決まったら、一人暮らし用のマンションを購入。卒業後は賃貸用として運用する
・海外不動産、先物取引、FXなどには手を出さない
これだけでも余剰資金は十分です。
最後にまとめましょう。
(1)出納について
見直したいのが本音だが、立場上無理だと思うので、今の水準を維持することに注力。ご質問者一人の所得に頼っている現状から、保険は手厚いほうがよい。
(2)老後資金について
破たんすることはまずない
(3)介護について
怖れ過ぎないように。ご両親の世代や資産状況、また要介護になる確率からも破滅的な状況は生じにくい。奥様が専業であるのも強み。
(4)資産運用
投資は慎重に。お金を劇的に増やす必要はない立場なので、積立投信ぐらいで十分
以上、ご参考になりましたら幸いです。