はじめに
「本を読むことで頭がよくなる」と昔からいわれますが、それも読み方次第。本の種類にもよりますが、別々の人が同じ本を読んでも
・読んだ後に何の知見も感情も残らない
・知識として新たな言葉を知る(でも、それだけに留まる)
・思考を巡らせ、新たな見解が生まれる
など、結果として残るものはさまざまです。
もちろん「単に時間をつぶしたかっただけ」など、読む目的によっては何も残らなくても問題ない場合があります。ですが、もし知見を得たり、あるいは思考を深めたいと思って本を手に取るなら、効果の高い読み方をしたいもの。
そのワザの一部を『「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術』(木山泰嗣著、以下本書)の内容を引き合いにしつつ、見てみましょう。
タイトルに表れない「潜在的なニーズ」を読み、思考力を働かせる
本のタイトルは内容を表しています。たとえば、なにか社会のトピックをテーマにしたビジネス書であれば「感染症」とか「MMT(現代貨幣理論)」「財政再建」などのキーワードが含まれ、時にはベストセラーとなります。
それらは「感染症について知りたい」「財政再建について論考を深めたい」など一定の顕在化したニーズを満たすべく出版して売れたわけですが、すべてのベストセラーがそのようなプロセスを経て成り立っているわけではありません。
東日本大震災が起きた2011年に、サッカーの長谷部誠選手が書いた『心を整える。』(幻冬舎)がベストセラーになりました。いまでも著者が現役で有名であるということもあってか、若い人にも読まれ続けているようです。
しかし、このベストセラーのタイトルどおりのテーマ「心を整える」は、時代背景を考えると、東日本大震災や福島第一原子力発電所事故といった未曾有の災害が起きた年に、日本の人々が潜在的に何を求めていたかを表しているといえます(この本が出版される直前の2020年の春にはパンデミックにより感染症やウイルスの本が売れ、カミュの『ペスト』〔新潮文庫〕が大ヒットしていました)。
(本書P.130より)
このように「なんとなく漂う不安・恐れ」といった世相が心の拠り所を求めた結果、特定の本がベストセラーにつながることもあります。これは裏を返せば「なぜかわからないけど売れた」という結果から思考を働かせれば、そのときどきの時代の空気やトレンドを読み取ることができるということです。
かつては、クイズ番組が流行するときは不景気だといわれたこともありますが、テレビをみるだけでなく読書をする習慣をもっていると「この1年でよく読むタイプの本があったな」とか、「最近、このテーマの本が増えているな」というように、自然に時代の空気を感じる瞬間がよくあります。
そのときは、いろいろな仮説を立てて「どうして、このテーマの本が売れているんだろう?」「なぜ、いまこの雰囲気の本が多いのだろう?」というように考えてみましょう。
考える対象は、本のタイトルや装丁(カバーデザイン)、著者の職業、さらには本の形態(ハードカバー、ソフトカバー、判型〔四六判、A5判、新書、文庫〕)、本で扱われている事柄などです。本を読みながら考えるのもよいですし、読書を終えた後に歩きながら考えてもよいと思います。
(本書P.130-131より)