はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
結婚してお得になるという制度はありますか? 彼はいますが、仕事はしばらく辞めたくなく子供が生まれる予定もないなかで、結婚する意義がわかりません。同棲でもよいのではと思ってしまいます。 金銭的な面で扶養に入ったほうが得になるなどメリットはあるのでしょうか?
(20代後半 独身 女性)
現状の把握と対策
野瀬: ご質問ありがとうございます。
結婚すると、光熱費や家賃、食費などが経済的にお得になるという話は私の著書でも書きました(『20代、お金と仕事について今こそ真剣に考えないとヤバイですよ!)』。
ただ、質問者の方がおっしゃるように、これは「同棲」でも受けられるメリットです。
今回は同棲で受けられること以外に「結婚」にはどんなメリットがあるのかを少し考えてみましょう。
結婚のメリットは?
お子さんがいると話が非常に複雑になりますので今回は「子供がいない」ことを前提に考えます。
1:税制上のメリット「配偶者控除・配偶者特別控除」
結婚すると「配偶者控除」というものが使えます。所得税のお話の際によく出てくるものですが、簡単にいうと奥様の給料が103万円以下であれば、旦那さんのお給料の税金を計算するときに税率をかける前に余計に38万円差し引けるということです。つまり「38万円×税率」だけお得だということです。
また仮に103万円を超えても、141万円までは配偶者控除ほどではないですが同じように旦那さんの税金が少なくなります。
ただし、ご存知のようにこの配偶者控除は廃止の方向で議論が進んでいます。建前上は女性の社会進出を促進するためとのことですが、本音は増税です。
2018年からは103万円の基準が150万円に引き上げられるなど制度変更が行われます。将来的に、このメリットは少なくなると考えて間違いないでしょう。
2:社会保険上のメリット「3号被保険者」
1)結婚していて
2)旦那さんがサラリーマンで
3)奥様の給料が130万円以下
上記の条件を満たせば、旦那さんのお給料から天引きされている厚生年金や国民年金によって「奥様の分も払ったこと」になります。このメリットは正直大きいです。
健康保険も考え方は同じですが、組合によっては内縁でも認められるので、事前に確認しておくことをおすすめします。
ただ、これは私の私見ですが、こちらも将来的には廃止、もしくは縮小されると思っています。
以前から政府や官公庁の間で「独身女性や共働き女性にとって不公平ではないか」という意見が根強いことと、税金同様、社会保険も財源が絶望的に足りませんので将来的には縮小の方向で進むと思います。
3:会社でのメリット「各種手当」
務めている企業によっては、結婚することで毎月の「家族手当」や祝い金をもらえるところがあります。地方では、この家族手当が手厚い会社も多いですので、ぜひ一度、従業員規則を確かめてください。
では、これらをまとめた結婚の経済的メリットはどれぐらいでしょうか?
1が38万×15%で5万円程度、2は月2万円程度×12で24万円程度、3は最近は採用している会社があまりないのでここではゼロとしましょう。
そうすると結婚することの経済的メリットは、「30万円/年」前後でしょうか。
給料などさまざまな条件にもよりますので幅を持たせると、年間20~40万円ぐらいというのがだいたいのイメージだと思います。決して小さくはないですね。
ただそれに加えて「将来の厚生年金という手厚い保障」がついてくるので長い期間で見るとメリットはもっと膨らむでしょう。
結局、結婚は得なのか?
さて、大事なのは結論です。結局、結婚は得なのでしょうか?
2つの観点から整理したいと思います。
奥様が稼ぐ金額
先ほどからちらほら出てくる、103万円、130万円、141万円という数値。これらの数値以下の給料であれば、上記で計算した年20~40万円程度のメリットを受けることはできるでしょう。
しかし、推察するに質問者の方はおそらくフルタイムで働いておられるので、給料はこれらの数値を軽く超えると思います。
実はそうなると、お金の観点から考える結婚のメリットは、ほとんどなくなってしまいます。
今後の社会保障・税制改正の方向性
おそらく今後の税制・社会保障の改正はいわゆる「専業主婦」を狙い撃ちにしてくると予想されます。
配偶者控除がなくなっていくのを皮切りに、社会保障の3号の制度も見直しが始まるでしょう。
そうなると私も以前は提唱していた「結婚の経済的メリット」というものは、社会保障・税制面においてはどんどん縮小されていくような気がします。
結婚より発生する追加コスト
また結婚によって逆にコストが増える可能性もあります。
結婚すると親戚付き合いが増えます。盆と正月には双方の実家に帰る人が多いでしょう。べらぼうにホテルや旅費が高い時期に、新幹線や飛行機を使って双方の実家に帰るというのはなかなかの負担です。
またそれ以外にもさまざまな交際費がかかりますし、精神的ストレスが増えることも予想されます。
これらを踏まえると、実は質問者の方の場合、結婚するメリットは短期的にはほとんどありません。
長期的にみると、相続のタイミングでは大きなメリットがあります。配偶者は相続税において非常に大きな控除が認められているからです。
私の周りでも結婚しないカップルが増えています。双方ともにバリバリ働きながら、同棲による経済的メリットは受けつつ、籍は入れずに気楽な「事実婚」のスタイルをとるカップルです。
そしてある程度、年をとって老後がみえたタイミングで相続を考えて籍を入れる。こういったカップルは日本でも今後増えていくのではないでしょうか。