はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

19歳の大学生です。来月には20歳を迎え、年金なども始まります。現在、漠然とですが、お金に対して不安を抱いています。これからの超高齢化社会では、一人の若者が数人の高齢者を支える構図になると聞いて心配です。学校では、お金や資産の扱い方については教えてもらえません。家庭で聞くこともできますが、私は自身の家庭について「人並み以上に裕福であるとは言えない」と感じています。ですので、両親とはまったく違う方向性の現代の金銭的な感覚を学ぶべきなのではないかと思っています。


こういった背景から、私は実用的なお金の知識を求めています。ティーンエイジャーまたは二十代の、これから仕事を見つけていく若者が資産設計していくにあたって読むべき本や、お金のプロの方の推薦書はありますか? また、今後すべきことなどがあったら教えてもらえるとうれしいです。
(10代後半 独身 男性)


野瀬: 私はセミナーや講演などで若い人と触れ合う機会があるのですが、今の若い世代の方と話していていつも思うのは「とても優秀だ」ということです。

基本的にまじめで、かつITスキルが高く、なにより私が同世代だったころと比べて大きく違うのはその「危機感」です。

私が就職するころはすでに日本の景気は悪かったのですが、それでも「どうにかなるだろう」という空気がありました。その点、今の若い世代は、いい意味でまったく国も会社も信用していないので、きっちり自立している人が多いと思います。

ただ、質問者の方がおっしゃるように、今後の日本の状況を考えると、それぐらいの危機感を持っておいたほうがよいと思います。社会保障関連の費用は今でも税収の半分を軽く超えていますし、今後毎年1兆円ずつ増えることが確定しています。

当然、この問題は解決されるべきなのですが、若者の絶対数が少ない以上、若者が全員選挙に行っても若者の負担が軽減されることは今後もないでしょう。

そのため、「お金」「資産設計」という点に関しては若い世代になるほどとくにしっかりした準備が必要になるかと思います。

億万長者の思考をのぞく

さて、そんななか推薦図書となると、むずかしいですね(笑)。

「今、役に立つ!」という書籍であれば、いわゆる投資の「ハウツーもの」を何点かご紹介できるのですが、19歳というこれから60年以上もの人生がある方に役立つ本というと、むずかしいです。とくに投資の「ハウツー」は時代によって異なることが多いからです。

ここでは私が個人的に「これはおもしろいし、時代を問わず役に立つ」と思った本を2冊ご紹介します。

ひとつめは、トマス・J・スタンリー氏の「となりの億万長者」です。

これまでの私のお話を読んでくださっている方であればご存知かと思いますが、私はかなりの「リスク回避型」の投資家です。

あまり大きな借入れもせず、節約してコツコツと貯めたお金を低リスク投資に投入し、地道にお金を増やしていくことがモットーです。この考え方は自分の事務所経営でも反映されており、同じように「無理せずコツコツ型」でやっています。

本書は「億万長者とはどんな人なのか? どうして億万長者になれたのか?」について調べた本で、とくにその支出面にフォーカスした内容となっています。

高級車や高級ワイン、高級時計などを好んで購入しているのは、年収1,000万円から3,000万円ぐらいの人で、それ以上の富裕層になると意外に生活は地味なのだとか。

その調査結果から「とくに突出するような収入がなくても億万長者にはなれる」という内容になっており、節約の大切さ、見栄をはらないことの大切さを説いています。こういった考え方は今の若い世代にもマッチすると思います。

水木しげるの人生に学ぶ

ふたつめは、資産設計に直接は関係ないですが、水木しげる氏の「ねぼけ人生」です。

田舎での少年時代、戦争、片腕を失ってからの職さがし、結婚、苦労の末の成功という激動の水木しげる氏の半生を綴った本なのですが、人生において必要な考え方や真理が詰まっているので個人的にお気に入りで何度も読み返しています。

人生はほんの少しの偶然で、死ぬ人もいるし生きながらえる人もいる。なぜ自分はこうも貧しいのか? それは自分がモノ(家や機械)を借りて働いているからであり、それを所有して人に貸したほうがはるかに儲かる。人の何倍も働かなければ大きな「成功」など勝ち取れない、などなど学びが盛りだくさんです。

ハウツーの移り変わりが早い昨今では、こういったシンプルな考え方のほうがハウツーより役立ちますし、仕事で疲れたときなどに、この本を読んで水木氏のハードワーカーぶりを思い出して、やる気を取り戻すようにしています。

若いうちにすべきこと

私はまだ人生においてなにも成し遂げていませんので、「人生ですべきこと!」と若い方に説教するのもおこがましいのですが、「若いうちにこうしておけばよかった」と思うことはたくさんありますので、私の失敗からの反省点として聞いていただければ幸いです。

人のつながりの大切さ

使い古された表現ですが、大企業でも公務員でも「死ぬまで安心」という場所は日本からなくなりました。

若い世代では転職が当たり前になっていますし、日本の財政を考えると公務員といえど死ぬまで安泰ということはないでしょう。

そんな状況において、信頼できるのはやはり「人同士のつながり」です。

転職先を紹介してくれたり、独立した時に仕事を紹介してくれたり、資産設計に関しても新しい情報を提供してくれるのは皆「人」です。

若いうちから人間関係の構築が得意になるように訓練しましょう。

こういうと「異業種交流会」などの怪しげな集まりに参加することを推奨しているようにも聞こえるのですが、そうではありません。

身近なところから、つまり家族や友人といった範囲で、まずは濃い人間関係を築くようにしてください。こうした人間関係は数字には表れませんが、かけがえのない資産になります。

語学の大切さ

これからの日本の経済状況を考えると、仕事や投資という点では、やはり「世界」に目を向ける必要があります。

その際には当然、語学が必要となるのですが、「さあ、海外進出だ!」と思ったタイミングですぐ海外に出られるように、または海外の情報が手に入るように、語学は常日頃から勉強しておいたほうがよいと思います。

私自身30歳を超えてから英語の勉強を始めたので、短期留学する必要に迫られ、実際にビジネスを始めるのに半年の遅れが出ました。この半年の間に落とした仕事もたくさんありましたので、今でも大変後悔しています。

若い方は、私のようにまだ頭もなまっていませんので、時間を見つけてこまめに語学の勉強をしておいたほうがよいでしょう。

税金について知る

最後に税理士としての立場からですが、日本人は「税金」についての基礎知識をもっと持つべきだと思います。

先日、日本で法人を立ち上げる自営業者の方へのコンサルをしていたのですが、その方も税に関する初歩的な知識がないために、危うく必要ない税金や費用を数十万円も多く払ってしまうところでした。

また、今後の日本の財政を考えると、私たち個人が負担する税金が重くなることはあれど、軽くなることはないでしょう。ですから、税金の基礎知識を身につけて、賢く生活防衛をできるかどうかで将来の手元に残るお金がずいぶん変わってきます。

これは単に所得税や法人税だけの話ではなく、相続税やさらに投資を行った際の株や不動産に関する税金でも同じです。

先ほど「ハウツーは陳腐化する」と言いましたが、それでも税金の根本的な考え方自体は不変です。まずはちまたにあるムック本で結構ですので、基本的な税金の話を押さえておくことをおすすめいたします。

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