はじめに

金価格は長期的に上昇する

ところで、ここまで話した金価格を上昇させている要因は、基本的には短期の価格変動を促しているものばかりです。有事の金買いは有事が収まれば終わりですし、積極的な財政出動と金融緩和による資金のダブつきも、永遠に続くものではありません。これらを材料視している短期の投資家がいなくなった時点で、価格の上昇圧力は後退します。

しかし、それでもまだ金価格は上昇する可能性があります。それは、長期的・構造的な金買いの要因があるからです。

それは金ETFの存在です。金ETFは米国をはじめとして世界中の証券取引所に上場され、日々売買されています。

金ETFがはじめて登場したのが2003年のこと。金ETFには投資された資金に相当する金が組み入れられるため、ETFの残高が増えるほどETFを経由した金の買い需要が高まります。世界中の金ETFの金地金保有残高は、2003年末が32トン、2004年末が156トン、2005年末が342トン、2006年末が559トンというように順調に増加傾向をたどり、2020年5月末は過去最高の3510トンに達しました。

長期的な金価格の推移を見ると、国内金価格は1999年に1グラム=917円、国際金価格は2001年に1トロイオンス=255.95ドルという最安値をつけた後、現在の上昇トレンドに至っています。

金ETFは、金という実物資産を証券化したものです。従来、年金基金をはじめとする機関投資家は、株式や債券などの有価証券にしか投資できませんでしたが、金ETFの登場によって、金という実物資産にも投資できるようになりました。近年、多額の資金を運用している年金基金などの機関投資家は、自分たちが運用しているポートフォリオのリターン向上とリスク分散を図るため、株式や債券といった伝統的資産に加え、オルタナティブ資産にも投資しています。

つまり、金ETFの登場と機関投資家のリスク分散ニーズが合致した結果、長期的・構造的な金価格の上昇につながったと考えられるのです。

世界中の資産運用業界における運用資産総額は、PwCの予測によると101.7兆ドルに達します。1ドル=110円で計算すると、1京1187兆円です。このうちオルタナティブ資産に振り分けられる金額が13兆ドル。日本円にして1430兆円です。

これに対して金の地上在庫は約1000兆円しかありません。つまり世界中の機関投資家がリスク分散を目的にして金などのオルタナティブ投資を進めれば進めるほど、金市場には相当程度の資金が流入し、長期的に金価格を押し上げる要因として作用することになります。市場構造という点で考えれば、金価格の上昇圧力は当面、弱まることはないと考えられるのです。

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