はじめに
ダメ出しの嵐に…
それでも食材のことを考えながら、サクラさんは献立表を作って夫に提出しました。夫からはメールに添付するようにと指示されたそうです。
「メールには、私はあなたの収入やこの家の資産について知る権利はないのでしょうか、と書いておきました。夫からはそのことについては言及はなく、添付した献立表には、『牛肉を買いすぎ、豚や鳥に変更すべき』だの『加工品は買わずに作れ』など、いちいちダメ出しが入っていました」
いったいこの夫婦、日常的にはどういう関係を築いてきたのでしょうか。
「正直言うと、食費5万円だってキツかったです。それでも、必死にやりくりしていました。あるとき実家の母にぽろりとその話をしたら、以来、母がお米を送ってくれるようになったんです。だからやってこられた。波風立てたくないから、夫とは表面上、うまくやってきました。夫は私が従っている限りは機嫌がいいんです」
ただ、コロナ禍で夫は日常的にイライラするようになっていきました。メールでのやりとりも、実際に面と向かって話すと自分が苛立って大声を上げてしまうかもしれないと夫が配慮したのではないかとサクラさんは言います。
「私も怒鳴られたくないから、メールのやりとりで正解だったとは思っています。ただ、献立表に赤で註釈がたくさん入っているのを見てめげました」
結局、献立表は何度も直し、ようやくOKがでましたが、予算通り3万円ではおさまりそうにないのが現状だといいます。
「私名義の預金がいくらかあるので、少し下ろすしかないかなと思っています。それよりプレッシャーなのは、夫が献立表を冷蔵庫に貼っていること。帰宅するとそれを見て、テーブルの上をチェックするんです」
とはいえ、予定が変わることもあります。予想に反して安い食材が買えれば、そのときは献立表を訂正しておくのがサクラさんの仕事。
「それこそポテサラやひじきの煮物などは、手作りかどうか夫が確認しているみたいなんですよね」
総菜だってフライだって、買ったほうが安いことは多々あります。ただ、夫は手作りのほうが安いと信じ込んでいる上、「母親なら、妻なら、すべての料理を手作りするのは当たり前」だとも思っています。二重の思い込みがサクラさんを息苦しくさせているのです。
「おそらく、夫の仕事もあまりうまくいっていないのかもしれません。どこもそうでしょうけど、会社の業績もよくなさそうですし。夫は仕事にしか関心がなかったような人。それがうまいかずにイライラして、家庭へのチェックに及んでいるんだと思います」
サクラさんは、どこまでも夫をかばおうとします。ただ、彼女自身の気持ちも弱り始めているのがわかります。“夫に従うだけの人生”で、本当に後悔しないのか、もう一度、自分自身に問い直してもいいのではないでしょうか。