はじめに
彼の心からのやさしさに触れて
彼とは自然とつきあうようになりました。つきあってほしいと言われた記憶はないそうですが、「気づいたら彼がうちにいたり、私が彼のところにいたり」したそうです。
「彼といるととにかくリラックスできました。彼もいつも気持ちがゆったりするって言ってくれて。ただ、私は自分の過去をなかなか彼に話せなかった」
彼は両親が離婚していて母親とふたりきりで育ったという話をしてくれました。そのとき彼女は「私も同じようなもの」と言ってはみたものの、それ以上話せなかった自分が、少し寂しかったそうです。
「彼のことは信頼しているつもりだったけど、やはりすべてを話すことはできなかった。私自身がそういう性格なんだろうとそのときは思いました」
それでも彼とは気が合って、つきあいを続けていきました。いつも一緒にいるわけではなく、お互いに仕事が忙しいと1ヶ月くらい会えないこともあります。会いたくても無理はしませんでした。
「昨年春、彼にプロポーズされたんです。でもそのときは『私、結婚するつもりない。たぶん結婚には向かない』と言いました。彼はめげずに夏にも秋にも、結婚しよう、ずっと一緒にいたいんだと言ってくれて。それでも私は気が進まない。自分が家庭をもってうまくやっていけるとは思えなかった」
今年の初め、ついに彼女は彼に過去をすべて打ち明けました。彼は黙って聞いてくれ、最後にはほろほろと涙をこぼしていたそうです。
「やさしい人なんだなと感動したけど、だからといって結婚しようとは思えなくて。すると彼は『アリサの好きにしていいよ。結婚したくないならしなくていい。でもつきあっていてほしい』って。ありがたかった。やっと味方ができたような気がしました」
コロナの影響が…
そしてこのコロナ禍において、アリサさんは仕事を失ってしまいます。それがもとで体調も崩しました。貯金を取り崩しながら生活、療養を続けます。不安でした。でもそれを彼には話していませんでした。
彼は仕事の合間に親身になって看病をしてくれ、よくおいしいものを作ってくれたそうです。
「ある日、彼が帰ったあとに封筒を見つけたんです。中を見ると100万円が入っていました。『無理しないで、使ってください。これは僕が勝手にあなたに貸すんです』とメモがあった。それを抱きしめて私、泣きました。そのとき貯金もけっこうなくなってきていて不安だったんです。そんなことを彼に言えない私の性格も見抜いて、彼は自分のお金を置いていった。彼だって残業代などが入らなくて困っていたはずなのに。そのときわかったんです、彼は自分のことより私を優先してくれるんだということを」
6月末になってようやく仕事が見つかり、彼女はまた忙しい日々を送っています。先日、彼に「まだ結婚したい気持ちをもってくれている?」と尋ねたら、彼はもちろんと笑ったそう。アリサさんは今、ようやく前向きに彼と一緒にいるための結婚を考え始めています。