はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
現在、築年数15年弱のマンションに居住しております。当初は私自身の名義で購入し、ローンの支払いをしておりましたが、購入してすぐ諸事情があって父親の名義に変更しました。ローンの残債は私自身で払い終え、管理費や固定資産税の支払いも私が継続しています。父親は地方の実家に居住しており、マンションへ住所を移転したことも同居したこともなく、名義のみの状況です。いずれは当初の通り、マンションを自分名義に戻す意向ですが、この際の贈与や相続税、費用、時期、手続きなどの進め方についてアドバイスいただければと思います。
(50代前半 独身 女性)
野瀬: うーん、かなりややこしくしてしまいましたね(笑)。
贈与税の徴収は逃れられない!?
子供名義のものを実際は親が払っているというご相談が圧倒的に多いのですが、質問者の方の場合はその逆のパターンになります。プロ野球選手や芸能人が、若いころ苦労をかけた親に「○○億円の豪邸をプレゼント!」と週刊誌に掲載されるようなパターンですね。
ただ、このような芸能人のケースでも、おそらく名義は芸能人本人にして、そこにご両親を住ませるかたちをとっていると予想されます。
なぜなら、そうしないと「子から親」の贈与のタイミングで贈与税がかかるうえに、ご両親が亡くなったあとの「親から子」のタイミングでまた相続税がかかるからです。
そのため、名義自体は芸能人自身にしていると予想されます。
原理原則でいえば、まず第一に、父親名義のものを子が支払っている時点で、子から親への贈与になります。金額にもよりますが住宅であれば贈与税の対象になるでしょう。
最初にお父様の名義に変えた時に贈与の手続きを取っていればよいのですが、もしそうでないのであれば税務署からの指摘で贈与税を支払う必要性に迫られる可能性があります。
「いや、実際は私が払っていたので、これは私の名義であるべきなんですよ!」と主張したい気持ちもわかりますが、名義がお父様である以上、これをシレッと変更するのは難しいと思います。
また、「父名義の家に私が家賃ゼロで住んでいたのだから、これは『親から子』への贈与でプラスマイナスゼロ!」と言いたい気持ちもわかります。しかし、世の中には親名義の不動産に子供がタダで住んでいる例はたくさんあります。
今回のケースでは、そもそもお父様は一度も居住の実績がなく、固定資産税や管理もすべて質問者の方が払っているので、「あるべき名義に戻すのだから贈与ではない」と主張をする方がいるのは事実です。
しかし、私個人的には難しいと思います。
名義を戻すためには?
さて、それでは今後の課題「親から子」へ名義を戻す作業について検討しましょう。
当然、「贈与」扱いとなりますので、極力税金を軽くしたいのが心情だと思います。
そうなると贈与の基礎控除金額たる110万を超えない範囲で、毎年少しずつ不動産の持ち分を変更するという方法が浮かぶと思います。
理論上はその通りできるのですが、不動産である以上、名義を移すたびに登録免許税と不動産取得税を払う必要があります。この金額がけっこうバカになりません。
登録免許税と不動産取得税を合わせると固定資産税評価額の5%程度になります。金額自体は小さいですが、「ちりも積もれば」で無視できない金額です。
また、毎年のように継続して110万円以下の土地の名義の変更を行った場合、「まとまった贈与の分割」と税務署が判断して、あとから贈与税を取られるリスクもあります。
そう考えると「どうしても今すぐ名義を戻したい」という理由がないのであれば、相続のタイミングで名義を変更するというのもひとつの手だと思います。
相続のタイミングまで待つメリット
その理由としてはまず、前述の「登録免許税」は贈与よりかなり安く、「不動産取得税」はかからないからです。これは意外に大きいです。
お父様がお亡くなりになるタイミングや不動産の金額にもよりますが、相続税の基礎控除は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」ですので、「110万円×年数」の基礎控除がつく贈与税を利用するよりも、登録免許税や不動産取得税を考えるとトータルで負担やリスクが小さくなることもあり得るわけです。
さらに「小規模宅地の特例」を使えば、この不動産の評価はもっと小さくなります。
条件は厳しいですが、一度条件を確認する価値はあると思います。条件は 国税庁のサイトで確認できます。
具体的には、(1)ある程度の面積以下の不動産に、(2)数年間お父様が居住されている実績があり、(3)質問者の方が同居もしくは別の賃貸住宅にお住まいなのであれば、相続時にこのマンションの評価額を大幅に減らすことができる可能性があります。
お父様にマンションに引っ越してもらう必要はありますが、一度条件を照らし合わせて可能かどうか試してみる価値はあるでしょう。