はじめに

もしも息子がいたら

私達夫婦は息子がいた場合は「ひろし」という名前をつけようと思っていました。そして、外で遊ぶ子供たちや野球少年を見た場合、若干肥満の短髪の少年を見ると「ひろしがいるよ」と言います。こうした少年がたまらなくかわいいな、と思うんですよ。ただ、それは他人の子供だからかわいいだけだろうな、とも確認し合います。

ひろしが太っていることが理由で「デブゴン」だのとあだ名をつけられていじめられたら本当に可哀想になります。学校から帰ってきてランドセルを置いて自分の部屋にとじこもってしまった。「おやつの時間だよ~」と言うと「いらない!」と声が聞こえる。

夜、「どうしておやつを食べなかったの?」と聞いたらひろしは重い口を開いてこう言う。

「今日も学校でデブだとバカにされてつねられたの。だから太らないようにおやつを食べなかったの。ぼく、悔しかった」

ひろしはこう言って目に涙を浮かべる。妻は「ひろし~、お母さんはアンタの味方だからね~。苦しかったらいつでも言ってね~」とひろしを抱きしめる。

いや、完全にアホな妄想なのは分かりますが、多分私達はすべてに臆病なんだと思います。「住宅ローンを途中で払えなくなったらどうしよう」「東京の狭い道で事故を起こして人を殺してしまったらどうしよう」「これまで内勤をしていたのに突然外回りの営業部署に異動させられたらどうしよう」――常にこんな心配ばかりをし、その結果様々なことを諦める人生を送ってきました。

こんなことを書くと「人生の楽しさを知らない」だの「惨めな人生だ」などと思う方もいるでしょうが、別にどうってことないんですよね……。不思議なもので、現状の生活がかなり充実しているとしか思えないし、将来の心配事がまったくないのです。

「装飾しない」人生

セミリタイアをしたら現在の家賃は払えなくなるので、引っ越しをすることとなります。この時に本当にラクなのが、資産価値のあるものがパソコン以外一切ない点です。ロクな家具や電化製品、食器、調理器具は我が家にありません。

「北欧の家具で揃えました」なんてことを自慢したい気もないため、とにかく後はすべてを捨てるだけ。

「諦める人生」「手抜きする生活」、悪くないですよ。かといってミニマリストでも何でもなく、自分の人生を装飾したいとまったく思わないだけです。