はじめに
FRBが慎重な姿勢を崩さないのはなぜ?
もっとも、ユーロの上昇はドル全面安の一つのきっかけに過ぎず、より根本的な原因が考えられます。ずばり、市場の「ドル離れ」を招いたのは米連邦準備制度理事会(FRB)の慎重な金融政策スタンスということになりそうです。
米国経済は4‐6月期に記録的な落ち込みとなりましたが、その後、持ち直す動きが見られます。しかし、新型コロナウイルスの感染が再拡大したことで、先行きは不透明感を増しています。7月28~29日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文からも悲観的なトーンが伝わってきます。
ちなみに、声明文には「経済の道筋は、ウイルスの行方に著しく左右されるだろう」との指摘があります。市場では、感染第2波により景気が下振れても備えができていることを示すために敢えて加えた一文という評価があり、相応に的を射ているかもしれません。
実質金利は切り下げ続けている
いずれにしても、FRBの長い歴史の中で、景気や金融政策が感染症に依存するという経験はそうあることではないでしょう。少なくとも、現在のメンバーにとっては初めての経験であり、先を見越したという意味のフォワード・ルッキング的な金融政策は困難と言えそうです。
結局、金融政策が景気や物価に対して後追い(ビハインド・ザ・カーブと呼ばれます)になることが濃厚と言え、その結果、米国の実質金利(名目金利から期待インフレ率を差し引いたもの)が水準を切り下げ続けています。このことがドルの重荷となっており、ドル安の原動力になっているとみられます。