はじめに

昨今、子どものいない夫婦も増えてきました。今回は、子どものいない夫婦に起こった相続の事例を2つご紹介します。


ケース1:配偶者の両親が健在だった佐藤さんの場合

佐藤真知さん(仮名 45歳)は、20年連れ沿ったご主人(さとしさん・仮名 50歳)を、先日亡くしました。

子どもがいなかったので、相続の諸手続きも、真知さん一人で行う予定でした。というのも、お互いにもしものことがあったときに権利があるのは自分の配偶者だけだと思っていたからです。銀行へ相続手続きに行った際、真知さんは、相続人が自分一人ではないことを知ったのです。さとしさんのご両親が、健在でした。相続人は、真知さんとご両親の3人だったのです。

子どもがいれば相続人になるのを知っている人はたくさんいると思います。子どもがいなければ配偶者が一人で相続すると思っている方も多いのではないでしょうか。

法律には、相続人になる人が定められています。ご夫婦のどちらかが亡くなったとき、戸籍に妻(夫)の記載のある人(配偶者)は、常に相続人になります。ただし、それだけでは終わりません。配偶者プラス、亡くなった人(被相続人)の家族関係によって相続人が決まるのです。

配偶者のほかに相続人になる人は?

●第1順位:子
子が死亡している場合は、その子(被相続人の孫)が相続人となります。相続開始時点で母親のお腹にいた胎児や、離婚後に配偶者が引き取った子どもも相続人です。被相続人が認知した子、また、再婚した配偶者の連れ子は、養子縁組をしていれば相続人になります。

●第2順位:父母
子の次の順位は父母です。父母が亡くなっており祖父母が存命であれば祖父母が相続人になります。

●第3順位:兄弟姉妹
父母の次の順位は兄弟姉妹です。兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子(甥や姪)が相続人になります。

配偶者+子、配偶者+父母、配偶者+兄弟姉妹のどこかに当てはまることが多いでしょう。なお、相続人が相続放棄をした場合などは、順位が変わりますので専門家におたずねください。

遺産分割協議の際、問題になることとは

今回の真知さんの場合は、さとしさんとの間に子どもがいないので、「配偶者+父母」に当てはまります。ですから、さとしさんの相続財産の手続きは、真知さんとさとしさんのご両親で話し合いをして財産の分け方を決めたうえ(遺産分割協議)、金融機関等への手続きを行うようになるのです。話し合いで決まらないと、ご主人の財産は凍結されてしまいます。

ここでひとつ問題があります。さとしさんのご両親は、話し合いのできる状態にあるのか。認知症の問題です。

さとしさんのご両親の年齢は2人共83歳。誰か1人が認知症になっていれば、3人での話し合いはできません。話し合いをするために後見人を家庭裁判所に選任してもらうよう申し立てすることになるのです。

一度後見人が選任されると、原則解任はできませんし、後見人が専門家の場合は報酬もかかります。報酬は被後見人が亡くなるまで続くことになります。

佐藤さん夫婦は何をしておけばよかったのか?

亡くなったさとしさんは、このようなことを想像していたのでしょうか。20年連れ添った奥様と築き上げた財産でも、奥様だけでなくご自身の両親にまで相続する権利があることを。また場合によっては手続きが煩雑になることを。佐藤さんご夫婦の場合、相続対策としてなにをしておけばよかったのでしょうか。

1)まずは「相続人の確認」です。

ご自身の出生から現在までの戸籍を収集し、今、もし何かあったときの相続人は誰かを知ることです。さとしさんが生前に確認をしていたならば、真知さんとさとしさんのご両親が相続人になることが分かり、誰に財産を引き継いでもらうのかを考える機会をもつことができたはずです。財産額を見て、相続税がかかるようであれば、相続税の対策も必要です。

2)真知さんに全財産を渡したいとなれば、次は「遺言書」の作成です。

遺言書の種類をここでは2つご紹介します。

●財産目録以外の全文を自署して書く「自筆証書遺言」
●公証役場に出向き、公証人に遺言の内容を伝えて作成してもらう「公正証書遺言」

自筆証書遺言は、遺言としての要件を満たしていないものもあり、実際に亡くなった後で無効になるケースもあります。書いた本人がしまい込んで見つからない可能性もあり、注意が必要です。公正証書遺言は、自筆証書遺言より費用がかかり、2名の証人が必要になります。ただし、無効になるケースはほとんどありません。手続の利便性を考えるなら公正証書遺言をお勧めします。

遺言書を作成すると、財産は真知さん一人で手続きし、引き継ぐことが出来ます。相続人が他にいても財産を分ける話し合いをする必要はないのです。

遺言書通りになるとは限らない?

しかし、今回のケース、さとしさんのご両親は、遺言書があったとしても「遺留分」という法律で最低限保証された財産の権利があります。ただし、遺留分を請求されない場合は財産を渡す必要はありません。さとしさんが生前に、相続人の調査をし、遺言書作成を専門家に相談しながら進めていたとするならば、遺留分のことも含めて考えを整理し、配慮することもできたでしょう。