はじめに

菅政権が抱えるリスクとは

マクロ安定化政策を十分行使して経済の安定成長をもたらすことは、日本の政治基盤を強める最低条件と言えます。安倍政権同様に政治基盤が強まれば、菅氏が意気込みを見せる、規制改革そしてデジタル庁創設を含めた公的部門の組織改革の実現可能性は高まるでしょう。

例えば、総じて高い支持率を保った安倍政権において、加計学園問題が大きな政治問題になりました。岩盤規制を崩す一貫として行われた獣医学部新設に絡んで既得権益者が政争に関わり、そして安倍政権に批判的なメディアを巻き込んだことが加計学園問題の本質だったと筆者は理解しています。権益の政治的な抵抗の強さを示す一端でしょうが、菅氏が言及する規制緩和等を実現するには、大きな政治資源が必要でしょう。

また、菅氏が言及している携帯電話の通信料金引き下げについては、料金が通信会社の寡占によって高止まっているとすれば、これを是正して一律の通信料金低下が起きれば、家計全体にとって減税と同じ効果が及びます。また、軽減税率を適用されている大手新聞などを含めた既存メディア等への競争促進なども、大多数の国民に恩恵が及ぶでしょう。

ただ、これらの規制見直しを実現するには、経済全体の安定成長そして雇用の機会を増やして世論の支持を得なければ、大きな抵抗に直面して実現が難しくなります。菅政権が、規制緩和をスムーズに実現するために、当面は、コロナ禍の後の経済状況をしっかり立て直して、2%インフレを実現させて経済活動正常化を最優先にすることが必要と筆者は考えます。

このため、菅政権が長期政権になるかどうかは、今後繰り出す政策の優先順位、そして繰り出すタイミングや順番が重要でしょう。仮に経済安定化政策が不十分にしか行われず失業率が高止まる経済状況が長期化すれば、世論の支持を失い政権基盤が弱まるので、政治的な抵抗によって目指す改革の実現が困難になります。

筆者は、菅政権に対しては安倍政権以上に期待している部分があります。ただ、優先する政策の順番を間違えたり、財政政策を柔軟に行使せず経済安定化政策が不十分に留まれば、大手メディアや多くの政治家の背後にいる権益者の抵抗がより強まり、そうした中で改革を断行すると政権基盤が大きく揺らぐでしょう。これが、改革を志す菅政権が抱えるリスクシナリオだと筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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