はじめに
昨今、“自転車を買う人が増えている”というニュースを耳にしませんか。
ステイホームだった時の運動不足解消に役立つという声があるほか、気軽に“密”を避けて移動ができることから、通勤用に利用する人も増えているようです。また、コロナ禍で増えたフード宅配でも自転車のニーズが高まっています。
経済産業省が調査する生産動態統計で見ると、緊急事態宣言が全国で解除(5月25日)された翌月の6月と、直近発表分の7月の2ヶ月間を合計した国内の自転車販売台数は前年同期間と比べて13.7%伸びました。
このように足元で大いに活躍している自転車ですが、実は株式市場と深いつながりがあります。今回は自転車と株価の関係を紹介します。
景気が厳しい時に自転車は活躍するが…
自転車について考える前に、それよりも金額の高い“自動車”について考えてみます。
景気が良い時は自動車の売れ行きが良くなります。所得が上がり人々のお財布に余裕ができるため新規で自動車を買ったり、買い替える人が増えるからです。そのため、景気が良くて株価も高い時には自動車販売は好調となります。
逆に景気や株価が悪いと自動車を所有する人が減ります。都心などでは駐車場代も高く、維持費もそれなりにかかります。そして新しく買う人も少なくなり、自動車も売れなくなるのです。
では、自転車のケースはどうでしょうか。自動車のようには一概に言えない気がします。
歩くにはちょっと遠いという距離なら、バスや電車、タクシーでなく、運賃が節約できると考えて自転車を使いたくなるケースもあるでしょう。自動車とは逆に、景気や株価が厳しい時ほど自転車が活躍する場面になると考えられます。
しかし、新品の自転車を買うには概ね数万円以上はしますから、お金の余裕が必要です。この点では、景気が良い時の方が自転車販売は好調になるのかもしれません。
自転車の販売台数と株価は連動している?
では、実際にデータで確認してみましょう。
経済産業省の生産動態統計にある国内の自転車販売台数を使います。この統計は毎月、月間の販売台数が掲載されています。今回の分析は傾向を捉えるため過去3ヶ月間の累計販売台数を使いました。
前の年と比べて何万台増えたかを見たのが図1の青線グラフです。グラフがプラスだと前年に比べて増えたことを表しています。赤線グラフが毎月末の日経平均株価です。これらを見ると、自転車販売台数と株価は概ね連動する関係があるようです。
自転車“販売”台数を使った分析なため、やはり自転車を“買う”という行動は少なくても人々の金銭面の余裕が必要です。余裕が無いと新しい自転車を買わずに昔のままを使ったりするからでしょう。
ただ、2018年10月から12月にかけて、株価が大きく下げる一方で自転車の販売台数は増加し、2つのグラフの連動が大きく崩れています。当時、2018年7月の米国の追加関税措置とそれに対する中国の報復関税で始まった米中貿易戦争の影響もあって景気後退⇒株安の場面でした。どうしても海外要因の影響が大きい時は、“国内”の自動車販売は株価と連動性が厳しくなるようです。
とはいえ、今年の世界的コロナ禍における株価の下落とその後の上昇も連動しています。これからはスポーツの秋のシーズンですし、暑い夏に自転車を避けていた人たちも“密”を避けるスポーツとしても自転車への注目が一層高まるでしょう。
また自転車ブームはコロナ禍で起こったものではありません。近年は自転車でぶらぶらと散歩する“ポタリング”も流行しています。今後の自転車販売台数の増加と、それに連動した株高に期待したいところです。