はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

将来的に発生する子供の教育や両親の介護費、自分たち夫婦の老後資金などに備えようと貯蓄や資産運用を行っています。ただ、介護や病気など突発的に発生する支出に備えようと考えると、いくらあっても足りないような気にもなります……。また子供の教育資金もお金をかけようと思えば、いくらでもかけられてしまうので、金銭的な面だけではありませんが迷っています。


現在は貯蓄と資産運用で資産を増やして、将来的な支出に備えようと考えていますが、実際いくらぐらい備えておけばよいのか、備える方法は今のままでよいのかなど、思慮不足な面があれば、どう改善すべきかをアドバイスいただけないでしょうか?


現在は会社員ですが、私の仕事のパフォーマンス次第で会社の業績が大きく影響を受ける状況です。当然ですが、将来的に下がる可能性もあり(もちろん上がる可能性もありますが)、仕事でのリスクは通常のサラリーマンよりも高いと思っています。そのため、できるだけ貯蓄で備えておきたいという考えです。


【現在の状況】
■備えておきたい資金
・子供3人(現在3人とも幼稚園)の教育資金
・お互いの両親(4名とも60代後半から70代前半)の介護や病気への備え
・夫婦2人(現在ともに33歳)の老後資金
■資産構成
・預金:150万円
・国内株式投信(インデックス):90万円
・海外先進国株式ETF(インデックス):240万円
・海外新興国株式ETF(インデックス):230万円
・海外債券および海外債券ETF:90万円
・国内および海外個別株式:75万円
・保険商品:120万円
・住宅ローン残高4,900万円程度(フラット35の固定金利、残り30年)
貯金毎月12万円、投信積立を5万円しています。
■収入
・年収1,100万円
(30代前半 既婚・子供3人 男性)


野瀬: いただいている情報から、少し簡単にエクセルで85歳までの生活設計をプランニングしてみました。

現状の把握および目標の設定

そのなかで今回、少し謎だったのが生活費です。年収は1,100万円とおうかがいしていますので、手取額は850万円程度でしょうか。そのなかから貯金に12万円、投資信託に5万円使っているとすると、差額として生活費とローンの合計額が650万円程度になります。

フラット35は基本的に元金均等返済なので、金利にもよりますが返済額は元金が月13.5万程度、金利が7.3万円程度でしょうか。合計すると返済額はだいたい月20万円ぐらい、年換算で240万円程度であることが予想されます。

そうすると逆算される生活費は年約400万円ということになります。

ローンの返済を除いての400万円なので、お子さんがまだ小学校に入学していない点を考えると、少し多いような気がします。まずはこの400万円の生活費のなかから、改善できるものがないかどうかを探すようにしてください。

「節約四天王」を攻略しろ

「生活費を節約する」というとなにか後ろ向きで悲しいイメージがあるのですが、生活費のなかには完全に無駄な支出というものも存在します。

私は「家賃」「保険」「通信費」「会費」の4つが「節約四天王」だと常、日頃から主張しているのですが、すでにご自宅は購入されているので、残りの生命保険やネット・携帯の料金プラン、カードの会費などを見直して固定費を改善してください。

月々の金額は小さいかもしれませんが、毎月のことなので効果は絶大です。ここで余裕が出たお金を投資に回すとよいと思います。

年収1100万円でも余裕はない

生活費の見直しが終わったら、次は将来の予測を見てみましょう。

元利均等なので徐々に住宅ローンの負担は軽くなるのですが、教育費が徐々に重くのしかかってくるので、私のシミュレーションにおいても、年収1,100万円といえども、それほど余裕のある家計ではありません。

とくに、3人の子どもの大学の学費、両親の介護が重なるタイミングにおいては、家計的には貯金の取崩しもやむ得ないと思います。

ただ正直、この国の介護への補助は手厚いですし、その時期であれば手厚い補助は、まだギリギリ続いていると思います。

ゆえに介護の金銭的問題は重たくはないのですが、問題は質問者の方が介護に時間を取られて本業が滞ることです。それにより収入が減ることが一番の問題です。

この問題をクリアするためには、なによりまず奥様のご理解が必要ですので、夫婦間のコミュニケーションを大切にしてください。事前にしっかり話し合っておくほうがよいでしょう。

そして、場合によっては、ある程度まとまったお金を出してご両親に質の良い施設に入っていただくことも、視野に入れる必要があります。

介護ではみなさんがまとまったお金が必要になるわけではありませんし、高齢者の方自身が金融資産をかなり持たれているケースも多いです。その金銭的インパクトを計算することは難しいのですが、その点もある程度は計算に織り込んでみました。

ゆとりある老後のためには

一方、その時期を抜けるとローン返済額もだいぶ減って、お子さんたちも独立されるので、家計的には余裕が出てくるでしょう。あまり安定したお仕事ではないとおうかがいしておりますので、昇給なし、退職金も一切なし、として計算してみました。

そして、生活費の改善、教育費、介護など、ここまでの点を考慮して、今のポートフォリオの投資を続けると考えると、60歳時には、おおむね5,000万円から6,000万円ぐらいの金融資産が積み上がると試算されました。

それ以外に、ご自宅を持っている点、お勤めなので厚生年金ももらえる点を考えると、夫婦二人で過ごす老後資金としてはクリアすべきラインをなんとかクリアしていると思います。

介護は読めない部分がありますし、「余裕のある老後」のためにはあともう少し、欲をいえば8,000万円ぐらいまで資産を積み上げたいところですが、個人的な意見としては、あまりエッジの効いたリスクの高い投資に今から切り替える必要はないかなと思います。

今の相場から考えて、海外および債券を含む投信を買っている点に投資に対する意識の高さを感じ好感が持てますし、現在はローン残高もありますので、これ以上、レバレッジを効かせた投資をすることは避けたほうがいいと思います。

また、ご自宅もかなり価格の高いグレードの物件だと思いますので、最後の手段として、お子さんが独立したあと賃貸に回すことも可能なので、ある程度、セーフティネットの確保はされていると考えらえます。

それでもどうしても8,000万円あたりのラインを狙いたいのであれば、現在の貯金12万円・投資5万円の割り振りを、貯金9万円・投資8万円ぐらいまでなら増やしてもよいかなと思います。

こちらでもあくまで老後資金・介護資金が目的なので投資信託を中心とすればよいでしょう。あまりリスクを取りにいかないほうがよいと思います。

そして最後に、なによりも大事なのは数字以外の部分です。お話をおうかがいしている限り、質問者の方の仕事での収入に依存している部分が大きい設計になります。

質問者の方の健康管理はもとより、介護で共倒れにならないように今から負担についてご両親やご親戚と腹を割って話しておけばよいでしょう。

この手の話はこじれると、お金をどれだけ使ってももはや解決できなくなりますので、事前にオープンに話し合うことをおすすめします。

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