はじめに

賃金に対する認知にはバイアスがかかる

 
同一労働同一賃金が浸透していない日本では、雇用形態や性別、年齢による賃金格差が根強く存在します。これまでの雇用慣行の結果といえるのですが、その背景の1つには「賃金が安いか高いか」の評価にはバイアスがかかりやすいことがあげられます。

まず、賃金が安くて困っている労働者の実態を、賃金の高い管理職や役員はリアルに想像できません。賃金が安くて困っている人がその不満や賃上げの要望を伝えても、「いまの賃金で十分」と思っている人は喫緊に対処しなければならない課題だとなかなか認識できないのです。

加えて、不満を表明しても当然なはずの労働者が、自身の賃金水準が低いことを認識していないこともあります。諸外国のように「賃金は増えて当然だ」と思っていなかったら、「賃金が同じだったら、減っていないのでよい」と思ってしまうでしょう。

海外諸国のように人材の流動性が高ければ、「A社ではいくら、B社でいくら…」と相場を知ることができます。しかし、長期雇用が根づいている日本では、賃金に関する情報が企業内に閉じているため、賃金の多寡を判断することが難しいのです。

いつのまにか賃金の安い国になってしまった理由は、企業が人件費削減に熱心に取り組んできたかたわらで、労働者たちは賃金水準の相場を知ることが難しく、賃金の多寡について職場内ですりあわせる風土が醸成されなかった。そんな日本の労働慣行も大きな要因の1つだと言えるでしょう。

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