はじめに
企業の人件費削減だけが原因?
日本の平均賃金が増えない理由は、これまで様々な角度から論じられてきました。代表的な理由に下記があります。
(1)企業の人件費削減
(2)サービス経済化が進んだものの、サービス産業の賃金水準は低い
(3)労働組合の組織率の低下
(1)は企業の経営姿勢、(2)は産業構造の変化によるものですが、これらの他にも、働く個人の変化も指摘されてきました。
(4)正社員以外の雇用形態で働く人が増えた(雇用形態格差)
(5)女性の労働参加が増えた(性別格差)
(6)高齢者の労働参加が増えた(年齢格差)
(4)~(6)は、正社員以外の労働者、女性、高齢者の賃金は安いと言っているわけですが、冷静に考えてみるとおかしな説明です。同じスキルや仕事内容にもかかわらず、性別や年齢だけで賃金が安いのは差別だからです。
(1)の企業の経営行動と表裏の部分がある(4)雇用形態格差は、すべてが差別とはいいきれない部分があるものの、(5)性別や(6)年齢による賃金格差を、いまなお当然視している人は少なくありません。
低賃金を受け入れてきた労働者たち
コストを削減したい企業からすれば、ある特定の労働者群の賃金が安かったとしても、問題が起きないのであれば何も変えないでしょう。しかし、当事者である労働者たちは、なぜこんな理不尽な状況を甘受してきたのでしょうか?
もちろん、「低賃金を受け入れてなどいない、少ない収入で必死にやりくりしてきた」という方がたくさんいます。けれど、不満がそれほどまでに強かったのであればなおさら、なぜ労働者たちは企業の賃金制度を変えるだけの影響力を持てなかったのでしょうか。
この理由は一般的には、(3)労働組合の組織率の低下により、労働者側が企業に賃上げを求める力が弱くなったからだと説明されます。たしかに戦後56%もあった組織率が、いまでは17%まで低下しているので、労働組合による賃金交渉の影響力は大きく後退しています。
しかし、労働組合がなかったら新たに組織したり、個人で声をあげることもできるはずです。しかしそうはなっていません。結果的に、労働者の賃金に対する切実な要望が企業に届かないままとなっています。